2022年8月13日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2018年8月31日

»著者プロフィール
著者
閉じる

東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

発達段階に応じてサイバー空間の影響を検証する

 私たちは、子どもという無垢な存在が社会から守られ、成長に応じて段階的に育まれるべきであることを忘れてしまったのではないだろうか?

 子どもを「小さな大人」のように扱ってはいないだろうか?

 本書では、章を追うごとに子どもの年齢が上がる。発達段階に応じてサイバー空間の影響を検証するのは、非常に重要な視点である。

 これまでに明らかになっているインターネット心理学や犯罪心理学の知見を駆使し、サイバー効果がいかにして子どもたちの弱点につけこむのかを説明している点は、説得力がある。

 例えば、オンライン上では、人はより大胆になり、抑制されず、判断力が失われた状態になる。「オンライン脱抑制効果」とよばれる心理で、直接対面するよりも寛大で気前よくなるため、相手をより信用し、短時間で情報を渡すようになる。

 ネガティブな感情をぶつけるなどの問題行動が増幅される「オンライン・エスカレーション」もある。衝動的に行動する傾向のある人は、特にこの影響に対して弱いという。

 さらに、匿名性に隠れて、似たような考えを持つ人々が互いを容易に発見できるようになる「オンライン・シンジケーション」という効果をもたらす。離れた場所に住む2人の犯罪者は、以前なら出会う可能性はほとんどなかったが、現在は簡単に組織化され、共通の関心事を前に進めようとする、というわけだ。

 これらのサイバー効果により、逸脱行為や犯罪行為の危険性が増すという。とりわけ、「行動の制御に関する問題や、注意欠陥を抱える人、あるいは強迫行動に陥りやすい人、衝動性が高い人にとって、サイバー環境は問題の大きな場所になる可能性がある。そうした人々は、オンライン上でより影響を受けやすいのだ」。

 子どもがサイバー空間に一人で入るのを許すのは、「子どもをニューヨークのど真ん中に置き去りにするようなものだ」というたとえは、けして大げさではないだろう。

インターネットを「人間に優しい」ものに

 本書の後半では、オンラインショッピング、ゲーム、ポルノなど、サイバー空間で熱狂状態を引き起こすきっかけとなるもの――脳内でドーパミンを分泌させ、強迫的で衝動的な依存行動を促すしくみ――を明らかにしてみせる。

 依存するようにデザインされているネットのやり口を知り、依存行動を促す原因を特定することで、「テクノロジーをよりユーザーと共生可能なものにデザイン」できる、と著者は提案する。

 「インターネットを『ユーザーに優しい』というより、『人間に優しい』ものにしてはどうだろうか。それによって、いま抱えている多くの問題に取り組むことができるだろう」とも語る。

 <本書ではいくつもの安全に対する懸念やリスクについて解説してきたが、私が特に注力しているのが、若者たちを守ることだ。彼らは私たちの未来であり、人間とは何かを示す存在になる。プールですら、子ども用の浅い部分が用意してある。インターネットでそれに当たる部分は、どこにあるのだろうか?>

 著者のこの視点には大いに共感する。親の目の届かないところで子どもが溺れてからでは遅いのだ。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る