確かに珠玉の名画が並び、なかなか興奮が収まらないだろう。名画を保護するために照明を暗めにした展示室で、いろいろと想いを巡らせることができる。もはや全てが見どころということになってしまうので、特に注目すべき点を平井氏に聞いてみた。
フランスではなくアメリカである理由
「一点一点をじっくり鑑賞してもらいたいですね。見応えが充分にあります。例えばマネの《鉄道》。二人の女性は親子なのか、姉妹なのか、全く関係がないのか分かりません。右下の葡萄も唐突で不思議です。まるで見る者を挑発しているような印象を受けます。ただ確かなことは左上に描かれているのがマネのアトリエですので、マネが近代の生活を描いたということです。印象派の画家達は都市の近代化を目にして、中世からの変化を感じ、新しい美術とその表現が必要であり、新しい時代を描くべきだと感じたのではないでしょうか。時代の興奮が伝わってきますね」。
そのような名作が祖国フランスではなく、なぜアメリカにあるのだろう?
「印象派は当時、前衛絵画だったのですよ。フランスでは見向きもされなかったのです。新しい国であるアメリカの、特に女性のコレクターたちが印象派を同時代に応援したのです。フランスに行かずとも、第一級の作品がアメリカでみられるようにと。その思想に敬意を払い、展示会場の壁面の床にある幅木を高くして、古い美術館の感触を出しました。壁面の薄いグレーやグリーンといった中間色も、ワシントン・ナショナル・ギャラリーを模したのです。アメリカに行かずとも、日本で向こうの雰囲気を味わうことができる展示といった具合です」。
展示会場は、時代ごとの作家を中心にした作品が1~6点ほどまとまって並んでいる。マネ、モネ、ルノワール、セザンヌ、ゴッホとお馴染みの作家だけではなく、フレデリック・バジール、ギュスターヴ・カイユボット、エヴァ・ゴンザレスといった日本ではあまり知られていない印象派の作家たちの作品を目にすることができる。また、ベルト・モリゾ、メアリー・カサットといった女流作家の名作が並ぶことも特徴の一つだ。
新しい時代を描いたフランスの画家達を、新しい国を育むためにアメリカのコレクターたちが応援する。この息遣いをそのままに日本で見ることができるということは、何という至福であろう。「これを見ずに、印象派は語れない。」というキャッチフレーズは、このような人と人との思いや繋がりを印象派が特徴としていることを教えてくれるのだ。
この不安定な時期に、多くの貴重な作品を貸し出してくれたワシントン・ナショナル・ギャラリーには本当に感服する。印象派の真髄が全体に漂っている展覧会をみることによって、私達も「新しい時代」を見据え、目標とすることが可能になるのではないだろうか。印象派の画家とアメリカのコレクターの意志を受け継いで、前向きな気持ちで新しい日々を迎えたいと感じたのであった。
ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション
2011年6月8日(水)~年9月5日(月)
開館時間:午前10時~午後6時(金曜は午後8時まで) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週火曜日
観覧料金:1500円(一般)、1200円(大学生)、800円(高校生)、中学生以下無料。※7月16日(土)、17日(日)、18日(月・祝) は高校生無料観覧日(学生証提示が必要)。
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅 青山霊園方面改札6出口(美術館直結)
都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩約4分
東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩約5分
お問合せ:TEL 03-5777-8600 (ハローダイヤル)
展覧会ホームページ:http://www.ntv.co.jp/washington/
国立新美術館ホープページ:http://www.nact.jp/
*開催情報は変更となる場合があります。最新の情報はハローダイヤル、公式サイトでご確認下さい。
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