結果で判断されるプロフェッショナルの世界で、868本の通産本塁打など、比類なき実績を残した王貞治。ミスした自分を認めず、失敗を繰り返すまいと徹底的に準備するその過程にこそ、最高峰を踏破した力の源があった。プロとは何か。王さんが、すべての人に贈るメッセージ。
「この1球は2度とない」と思ってきたんですよ。
「風が吹いても雨が降っても、コンディションが悪くても、野球はやらなきゃいかんでしょう。そこでミスした時に、『何々だったから仕方ない』と思っては、同じ失敗を繰り返します。どんな状況でも自分の最善を尽くすべきだと考えられるようになって、初めてプロと言えます。言い訳はしない、それがプロです」
王貞治。ジャイアンツでの22年間で、本塁打王15回、三冠王2回、最優秀選手9回。生涯で描いた868本のアーチは世界最多。結果で判断されるプロフェッショナルの世界において、その実績は比類ない。王をプロ中のプロたらしめたものは、失敗を何か─環境や体調や相手や審判─のせいにせずに原因を自分に向け、同じミスを繰り返すまいと練習を積み重ね、そうして自身のレベルを上げていくという、果てしなく長い過程にあった。
「僕はね、『この1球は2度とない』と思ってきたんですよ。僕は1万回以上(1万1866回)打席に立ったのかな。1打席3、4球としても、4万くらいの球と対して、それでも『あの1球を打ち損じた』と今でも思います。打てなかった球を何とか打たなきゃ、そのためにどうしたらいいかと思ってやっていると、ミスしていたものがミスしなくなるんです」
「打率も3割でいい、7回はミスしてもいいと考えると、ボールをバットの芯に結びつける力が鈍くなるね。10回中10回、全部打つぞと臨んで、打てなかった時にどうしてだと考えて練習して、やっと3割打てるんです。努力したからって、必ずしもいい結果になるとは限りません。だけど、やらないとダメなんだよね」
結果が出なかった時はもちろん、たとえ出塁しても打つべき球を仕留められなければ、王はそれをミスだと考えた。ミスした自分を認めず、繰り返さないための努力を追い求めて初めて、いい結果を得るチャンスが訪れる。眦(まなじり)を決して1球1球に立ち向かう王の姿が目に浮かぶ。
徹底的な努力を象徴するのが「荒川道場」こと荒川博コーチ宅での猛練習だ。大物ルーキーとして早稲田実業高から入団した王は、今では想像できないが夜遊び朝帰りの常連で、最初の3年間は鳴かず飛ばず。結果が出ず、藁にもすがる思いに追い込まれていた王は、新たに打撃コーチに就任した荒川宅に通い詰める。
「1試合に4打席立って、スイングは10回振るかどうか。その10回でミスしないために、毎日100本も1000本も素振りをしました。『この1球』を逃さないためには集中力が必要ですから、呼吸力を鍛えて、一呼吸で30回もバットを振れるようになりました。打てる人がうらやましくて、どこに長所があるのかと、まねをしてみることもありました」