しかしこの計画には弱点もある。地下トンネルに入ってしまえば自動運転となり確かに移動は早くなるが、トンネルに入るには地上から1台ずつエレベーターのようなもので下す必要がある。このエレベーターに乗るための大渋滞ができるのではないか、結果的にトンネルが出来ても時間の短縮には結びつかないのではないか、という疑問だ。
「自宅にカーエレベーター」計画
それに答えるかのように打ち出された「自宅にカーエレベーター」計画。ボーリング社がロサンゼルス市に提出した計画書によると、自宅ガレージにエレベーターを設置、地下およそ15メートルまで車を下して、そこからボーリング社のトンネルシステムへと直結させる、というものだ。しかも計画書を見ると当初はトンネルを自分の車で走る、というものだったのが、ループという複数の人が乗り込める小型カプセルの可能性にも言及されている。ロサンゼルス一帯にいくつかのループ駅を設け、そこで人がループに乗って移動、というものでいわば小型の地下鉄とハイパーループを組み合わせたようなものなのだ。
マスク氏が実現したいのは地下を走る高速の公共交通なのか、それとも自家用車を走らせるトンネルなのか。あるいはトンネル内では車もループも共存することになるのか。計画書を見ても明確な答えは得られない。しかも公共交通にするならば駅をどこに設定するのか、駅へのアクセスはどうなるのか、その場合自宅にエレベーターを設置する意味は、など疑問が深まるばかりだ。
今回の自宅ガレージにエレベーター、という計画はすでにスペースX本社があるホーソン市議会の承認を得て、ボーリング社が実際にホーソン市にある住宅を使って実験的に建設中だという。ホーソン市に提出された書類を見る限り、これは車を自宅の真下からトンネルに直結させて自分の車で移動する、というものらしい。ボーリング社が現在行っているのはスペースXから空港までのテストトンネルの建設で、自宅ガレージからのアクセスはこれに付加する計画のようだ。
しかしそれにも問題がある。もし多くの家庭が自宅エレベーターを設置した場合、それこそ地価はアリの巣のような状態になってしまう。地震の多いロサンゼルスで安全性に問題はないのか? このような複雑なルートを作り上げる意味はあるのか? そしてコストはどうなるのか? という点だ。
マスク氏の手法で行くと、自宅エレベーター設置希望の顧客から前金を徴収して実現に移る、というプロセスになりそうだが、モデル3、月旅行、そして自宅エレベーターと、まさに前金ビジネスとでも言うべき制度が定着した感がある。
ただ、ロサンゼルスでこれまで公共交通が発展してこなかったのは、土地が広大過ぎて公共交通が網羅しきれない、つまり自宅から公共交通の停留所までの距離が長すぎる、また特に高級住宅地において「自宅の地下部分を使用することを拒絶する」意見が多い、など様々な障害があるためだ。もしストレスなく移動できる手段があるならば利用したい、と考える人は多いが、マスク氏のアイデアは実現性にやや難がある、と言わざるを得ない。アイデアが先行するばかりで実態が追い付かないボーリング社、そして迷走を続けるマスク氏、この結末はどうなるのだろうか。
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