2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年7月13日

 中国経済の減速はもはや避けられないであろうが、実際、今年6月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は3カ月連続で前月の水準を下回り、2年4カ月ぶりの低水準に落ち込んだ。その中で、経済の減速に対する懸念が中国国内でも広がっている。6月27日、中国人民銀行(中央銀行)金融政策委員会の李稲葵委員は外国メディアからの取材の中で「減速の懸念」を表明しているし、経済学界の大御所で北京大学教授の励以寧氏は同日、金融引き締め策がそのまま継続していけば、中国経済は「インフレ率が上昇しながらの成長率の減速」に直面することになるだろうとの警告を発している。

 それらの懸念や警告はまったく正しい。このままいけば中国経済は確実に落ちていくであろう。しかしだからといって、政府は現在の金融引き締め策を打ち切ることもできない。引き締めの手綱を緩めれば、インフレがよりいっそうの猛威を振るってくるに違いない。政府の抱えるジレンマは深まるばかりである。

売れ残り始めた不動産

 こうした中で、6月の北京市内の不動産物件の成約件数が29カ月以来の最低水準に落ち込むなど、この年の春から始まった不動産市場の冷え込みが進んでいる。それもまた、政府による金融引き締め政策のもたらした結果の一つであるが、市場が冷え込むと不動産物件の在庫は当然増えてくる。たとえば首都・北京の場合、「21世紀経済報道」という経済専門紙が6月30日に報じたところによると、2011年6月現在、北京市内で売れ残りの不動産在庫面積はすでに3300万平方メートル以上に達しており、時価では約1兆元(日本円にして124兆円相当)にも上っているという。そして、今までの平均的販売率からすれば、北京の不動産在庫を消化するには今後1年半以上もかかるとされている。

 在庫の大量発生はもちろん北京だけの問題ではない。先述の新聞記事によれば、たとえば武漢と杭州は両方とも2年間の販売分の在庫を抱えており、深セン、広州、上海もそれぞれ、9カ月分、8カ月分、7カ月分の在庫があるという。

不動産価格の総崩れが始まる

 売れ残りの在庫をそれほど抱えてしまうと、不動産業者の資金繰りが大変苦しくなるのは当然である。市場の停滞がそのまま継続していけば、いずれかの時点で、業者は生き残りを計って資金の回収を急ぐためには、手持ちの在庫物件を値下げして売りさばくしかない。しかしそれに伴って、投機用に不動産を購入している人々の多くがいっせいに売りに動くに違い。そうなれば、不動産価格の総崩れはどこかで始まるのである。最近、社会科学院工業経済研究所の曹建海研究員という人物の口から、「2012年に北京の不動産価格が5割も暴落するだろう」との不気味な予言がなされているのもけっして根拠のないことではない。不動産バブル崩壊の足音がいよいよ聞こえてきているのである。

 問題は、これからどうなるのかであるが、今のところまず言えるのは、中国を襲ってきているインフレの大波はそう簡単に収まらないことである。中国の経済問題を取り扱った私の以前のコラムでも指摘しているように、中国のインフレはそもそも、過去数十年間にわたる貨幣の過剰供給の必然の結果であるから、短期間の金融引き締め策の一つや二つでは収まるような性格の問題でもない。6月の消費者物価指数は5月のそれよりも大幅に上昇していることは前述の通りであるが、「7月のインフレ率は6月よりもさらに高くなる」との予測も最近、中国農業銀行から出されている。前出の人民銀行貨幣政策委員会の李稲葵委員に至っては、向こう10年間、慢性的なインフレが問題であり続けるとの暗澹たる見通しを示している。


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