もはや効き目のない 「高付加価値」
しかし、今回の金融危機で明示されたことは、高次の機能や性能をぶらさげて、購買欲を刺激し、量的拡大に消費者を誘うビジネスモデルに限界があったということだ。 足りないキャッシュをローンで賄って消費し、将来の値上がりを前提にキャッシュを供給する「レバレッジ(てこの原理)」に頼った経済の無規律な拡大が、サブプライム問題の根底にあった。
電機メーカーの多くはテレビやデジタルカメラの在庫を大量に抱え、業績が急速に悪化している。消費者マインドに「レバレッジ」をきかせてきた結果ともいえる。すでに欲しいモノがあまりない消費者に、性能や機能のさらなる高度化という幻影を振りかざし、お値打ち感を示して買わせるというビジネスモデルだ。そして、今回の危機で明確になったのは、その原理ではもはや消費者は動かないということだ。
ある電機メーカートップはこう語る。「今回の需要減少は底流に消費マインドの変化がある。いつもの不況とは質的に違うように思う」。消費者が「高付加価値」の製品に見向きもしないとなれば、ビジネスのやり方は根底から見直さざるを得ない。
一つはそれでも「高付加価値」に特化する道。「高付加価値」は一部のマニア向けと割り切り、少量で利益が出るように、思い切り規模を縮小して、厳選した高級ブティックを目指す戦略だ。もう一つは、ブランドや機能よりも価格で勝負する道。余計な機能や性能はいらない。ひたすら効率化、低コスト化を進め、規模を追求して韓国や台湾、中国勢と真正面から競合する戦略だ。
どちらにしても、現在、国内大手が抱えているような、大規模に製品を開発・生産する体制を維持することは難しい。大幅な人員削減と拠点統廃合、事業撤退を迫られ、日本のメーカーには難しい選択だ。
選択と集中といいながら、ブランドが消え、会社がなくなるような選択をしてきた日本の大手はほとんどない。日本の電機メーカーは今後、公的資金の活用も検討しながら、「高付加価値」と「低コスト化」の狭間で突破口を探る動きを続けざるを得まい。
過当競争の状況が続く限り、体力勝負で業界再編も進むだろうが、最も大切なことは本当に消費者目線で製品を作ることであり、その際は「使い勝手」が重要なポイントになる。
例えばテレビやビデオ機器。使い勝手重視といいながら、メーカー各社は使い勝手の悪い製品を出し続けてきた。機器の個々の性能は確かに高い。同じメーカーの製品をそろえた場合の「リンク機能」やリモコンの連携も優れているかもしれない。しかし、消費者の多くはパナソニックが提唱するように「家まるごとパナソニック」にはしない。パナソニックがすべての製品カテゴリーで圧倒的に安く、すべての製品を一括購入するのであれば、それも可能だが。