2024年11月25日(月)

Wedge REPORT

2009年2月27日

底から這い上がった
ビクターの意地

 消費者の多くは、必要に応じて、それぞれのタイミングで製品を買う。テレビの映りが悪くなったから、そろそろ新しいモノを買おう、といった要領だ。その際に自社製品のビデオやカメラやパソコンとの連携を考えて、と提案しても、心動く消費者がどれだけいるだろうか。
既に持っている他社製品や旧モデルとも連携しやすい、高齢者や子供でも使いやすい、取扱説明書を読み込まなくても感覚的に操作できる・・・・・・、といった数値には表れない使い勝手の高い製品。もっといえば、購入者として想定する消費者層の生活実態に即した企画・開発が量販品では不可欠だ。

 そうしたニーズを取りこんだ製品は不況下にあっても、売れている。例えば、日本ビクターのビデオカメラ「Everio(エブリオ) GZ-MG330」。08年1月に売り出し、単一モデルとしては大ヒットといえる全世界100万台を超えるセールスを記録した。ハードディスクの記録容量は30ギガバイト、撮像素子には107万画素のCCDを使い、数値上のスペックはライバルはおろか、ビクターの製品ラインアップのなかでも特筆すべき点はない。

 しかし、スリムな本体に、女性が好む色のバリエーションは、価格の手ごろさと相まって世界中の消費者の心をつかんだ。液晶モニター横のスライダーを指で上下しながらメニューを選ぶ「レーザータッチオペレーション」と呼ぶ操作は、ボタンで選んでいく面倒を回避しながらも、小さな液晶画面に手あかをつけることもなく、感覚的な操作を可能にしたという意味で製品に「個性」をもたせた。

 テレビやVHSの開発、ハードディスク内蔵ビデオカメラの投入など、常に業界の先頭を走ってきた日本ビクター。技術へのプライドの高さは広く知られていたが、親会社パナソニックに「見捨てられ」、「格下」のケンウッドと経営統合された。歴史とプライドは粉砕され、相次ぐ人員整理や工場閉鎖、事業売却で、作りたい製品よりも売れる製品を作るしかない状況に追い込まれた。その結果生まれた「力の抜けた」製品がヒットしたのは皮肉なことだ。持ち株会社、JVC・ケンウッド・ホールディングスの今期営業損益はわずかながらも黒字を確保する見通し。負け組ビクターが赤字転落する大手よりも利益を稼ぐ。1年前には想像もできない事態が起きている。

存在意義が問われる
日本の電機業界

 例えば、近年アップルが強いのは、消費者がアップルの提示した新しい世界や生活スタイルに価値を見いだし、アップル製品の価格がその価値に見合っていると判断。アップルの製品を、先を争って「買い」「見せびらかして」「話題にする」ことだ。

 日本の電機メーカーが、数字で表現可能な機能や性能や価格ではなく、消費者の心をつかみ、生活を変えるような「何か」を提示するモノを生み出し、効率的に作って売る体制や流れを作り出せない限り、コスト削減を進めて価格競争への耐性を高めても、あるいは業界再編を進めて過当競争の状況を解消しても、利益を享受できる新天地を見いだすことは難しい。

 公的資金を自動車大手ビッグスリーに投入して再建を支援する米国では、本当にビッグスリーを救済するべきなのか? という批判も根強い。むしろ破綻させ、巨大な労働力を他産業に振り向ける方が米国経済の再生に寄与するのではないかという声もある。

 電機産業は今後も日本を支える基幹産業なのか。日本に残すべき産業なのか│。公的資金投入も現実味を帯びるなか、メイドインジャパンを世界に知らしめ、戦後復興を支えてきた日本の電機産業は、収益回復にとどまらず、産業としての存在意義すら問われている。「ニッポン電機」はビッグスリーを笑えない。

◆「WEDGE」2009年3月号より

 


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