2024年4月27日(土)

栖来ひかりが綴る「日本人に伝えたい台湾のリアル」

2018年10月23日

「良いとこ取り」で育まれてきた台湾文化

 台湾の置かれた地理関係にも大きなヒントがありそうだ。日本・中国・アメリカという3つの大国のまん中に位置する台湾は、文化的にも常に周辺国の「良いとこ取り」をすることで育まれてきた。旅行や留学で日本に行けば80年代前後に盛り上がったセゾン文化やポストモダニズム文化に触れられたし、ABC(American Born Chinese)と呼ばれるアメリカ移民の子供たちを通じ、欧米の建築やアートなどの知識やセンスを吸収した。

 また中国において文化・言論的な自由が制限されてきたぶん、「華語文化」「華文創作」などのプラットフォームを台湾が担ってきたことも大きい。映画監督として世界的に知られるマレーシア出身の蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)をはじめ、マレーシア・タイ・シンガポール出身の華人創作者の多くについて、台湾が窓口となる役割を担ってきたのである(かくいう筆者が台湾で出版した華語書籍も、誠品書店を通じて香港・マレーシア・シンガポールなどでも販売されている)。

呉清友氏の死後はじめてとなる、最新の誠品書店、中山駅の「南西店」。娘の呉旻潔氏が手掛けた(写真:筆者提供)
地下街の誠品と南西店の誕生により、中山に新しい文化的動線が作られた(写真:筆者提供)

東アジア文化への「どこでもドア」となるか

 そうした誠品が日本にできることで、年々悪化していると言われる日本の出版環境に、変化をもたらすことはあるだろうか。

 前述の赤松美和子氏はこうも話す。

「誠品書店から、日本の書店のあり方に新たな提案がなされようとしています。これを機に日本でも、一方的に書店に期待を寄せるだけでなく、ひとりひとりが文化創造のサポーターとして本と関わっていく喜びと充実感を感じ、新たな日本の書店文化が生まれるきっかけとなることを願っています」

 筆者として期待したいのは、誠品が日本における東アジア文化への「どこでもドア」になることだ。日本に居ながらにして台湾や香港・中国・東南アジアにおける現代華文創作やエンターテインメント、クリエイティブデザインに触れ、日本の方々がアジアの「今」をより身近に感じられるようになれば嬉しい。

 創業者・呉清友氏の言った「書店ではなく、読書を広める場所」。その精神を、来年開業する日本一号店の誠品がどのように生かしていくのか、注目していきたいと思う。

栖来ひかり(台湾在住ライター)
京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。日本の各媒体に台湾事情を寄稿している。著書に『在台灣尋找Y字路/台湾、Y字路さがし』(2017年、玉山社)、『山口,西京都的古城之美』(2018年、幸福文化)がある。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story』

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る