チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年10月23日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 2017年11月に、全米民主主義基金(NED)が行ったフォーラムで注目されて以来、「シャープパワー」という言葉が日本でも流行りになっているが、そもそもシャープパワーとは、NEDの説明を簡単に言えば、権威主義国家が民主主義国家に対して行う強制力や時に違法な手段を用いて世論や政治家を味方につける力のことである。

 一般的に、パブリック・ディプロマシーは、文化や政治的価値観といったソフトパワーを用いた対外発信のことを指すが、中国のパブリック・ディプロマシーは、権威主義国家であることから、ソフトパワーではなくシャープパワーを用いた働きかけをすることが多いとされる。米中経済摩擦の激化や中国の軍事行動に対する警戒感の高まりに合わせて命名され流行りになった言葉であり、中国を非難するために使われる言葉であるともいえる。

 さらに、2018年10月に米国防総省が発表した「防衛産業基盤に関する報告書」では、中国の攻撃的な経済活動が米国防衛産業基盤に対して悪影響を与えていると危機感を示している。加えて、中国の経済活動が軍事的拡張や軍の近代化を支えているとする。

過度の対立姿勢も対米弱腰も避けたい中国

 米国の中国に対する対決姿勢は明確になってきた。空席が続いていた、東アジア・太平洋地域を担当する国務次官補に、元空軍准将のデビッド・スティルウェル氏が指名された。スティルウェル氏は韓国語と中国語が堪能であるが、退役軍人が中国を含む地域を担当する国務次官補に抜擢されること自体が、トランプ政権の対中強硬姿勢を示すものであるともいえる。

 米国の圧力を跳ね除けるのは人民解放軍の役割である。最近になって、中国国営メディアが、最先端の技術を用いた武器開発の報道を繰り返すのは、米国に対するけん制であるともいえる。一方で、習近平主席は、人民解放軍を掌握するために、「反腐敗」を用いて高級将校の摘発および処分を進めている。

 2018年10月16日、中国国営新華社通信が、軍の最高指導機関である共産党中央軍事委員会の委員であった房峰輝・前統合参謀部参謀長と張陽・前軍事委政治工作部主任が、贈収賄および他の手段で巨額の蓄財を行った容疑で、党籍剥奪の処分を受けたと報じた。張陽上将は、昨年11月に自殺しているにも関わらず、処分されたものだ。中国らしいと言ってしまえばそれまでだが、習近平主席の軍に対する「反腐敗」の徹底を示すものとして受け止められている。

 さらに、対米政策および経済政策の失敗を理由に習近平主席の側近たちが批判される中、機会を窺っていた王岐山副主席が外交の表舞台で積極的に動き始めた。10月18日、中国外交部が、王岐山副主席が中東のイスラエルやパレスチナ自治政府、エジプトなどを歴訪すると発表したのだ。米国からの技術移転が難しくなっている現在、イスラエルに協力を求めることも重要な目的だと考えられる。王岐山氏が引き続き対米政策を主導することを示唆するものだ。

 米国が中国を完全に潰そうとしていると恐れる中国は、米国との衝突を避けたいと考えているが、過度の対立姿勢を示さないようにしながら、対米弱腰ととられないように見せなければならない。米国を凌駕する軍事的・経済的実力を身に着けるまで、中国の綱渡りは続くことになる。
 

  
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