チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年10月23日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

中国が北朝鮮に軍事介入するであろう2つの理由

 こうした状況を最も憂慮するのが中国である。北朝鮮が不安定化すれば、中国が軍事的に介入する可能性がある。そして、中国の軍事介入を警戒するのが米国だ。中国が軍事介入して生起する米中間の軍事的緊張を危惧する米国の軍関係者や有識者は多い。中国が介入するだろうと考えるには、大きく2つの理由がある。

 1つは、北朝鮮が保有する核兵器の管理が疎かになるからだ。こうした状況に危機感を示すのは、中国だけではない。現在でさえ米国は、北朝鮮の核兵器がイランなどを通じてISなどに拡散することを警戒している。米国は、北朝鮮とイランが核兵器やミサイル開発における協力を継続していると考えているのだ。さらに、北朝鮮軍の暴発した一部の部隊が核兵器や生物化学兵器を使用する危険もある。

 核兵器の使用や拡散の危険が高まれば、米軍は、韓国軍と協力して北朝鮮の核兵器を自らの手で押さえようとする。中国が許容できないのは、米国に北朝鮮の核兵器を押さえられることだ。米国は、米軍による北朝鮮への進入が機微な問題であることを理解し、韓国軍にその任を負わせることを考えているかも知れない。しかし、中国にとっては、北朝鮮の核兵器が米国の手で管理されることに変わりはない。

 2つ目の理由は、北朝鮮社会を安定化させるためだ。朝鮮半島が米国の影響下に置かれることを避けたいだけでなく、中国は、中朝国境付近の中国領側に、これ以上、朝鮮族が増加することも許容できない。国内に多数の少数民族を抱えることは、新たな社会の不安定要因となるからだ。これまでも中国は、経済不振や農作物の不作等の原因で北朝鮮国内が不安定化するたびに、中朝国境に人民解放軍の部隊を増派して、北朝鮮から中国に避難民が流れ込まないようにしてきた。

 自然災害等によって北朝鮮国内が食料不足に陥ったとして、中国は、国際社会に北朝鮮に対する人道支援を呼びかけ、自らも支援を行おうとするだろう。北朝鮮社会を安定させることは、中国の利益になるのだ。食料や燃料の人道支援は、本当に困難に直面している北朝鮮国民に行き渡らないかもしれないが、中国には他にも目的がある。

 北朝鮮国内が混乱に陥ったと分析すれば、中国は直ちに人民解放軍の部隊を中朝国境付近に集結させるだろう。そして、人道支援の輸送を担当するのは、これら人民解放軍の部隊である。陸軍は、陸路で物資を輸送しようとし、道路が寸断されて孤立した地域への救援活動を行うとして、大量のヘリコプターも運用されることになる。さらに、海岸から近い地域に対しての支援として、中国海軍艦艇も北朝鮮周辺海域に集まるだろう。

 北朝鮮に入る中国軍の目的は、北朝鮮の核兵器を押さえることと社会を安定化させることである。北朝鮮が崩壊してしまうと、中国は、米国との間の緩衝地帯を失う。中国にとって、北朝鮮の指導者が誰であってもかまわないが、朝鮮半島が統一されず北朝鮮が中国の影響下にあり続けることが重要である。

 中国軍の動きに対して、日本や米国も自衛隊および米軍の艦艇・航空機を用いた人道支援を計画する必要がある。中国が一方的に実質的軍事介入を行わないよう、カウンターパワーとして、朝鮮半島および周辺に軍事力を展開してけん制するのだ。

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