チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年10月23日

»著者プロフィール
著者
閉じる

小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

ロシアが望むのは米中両国の疲弊

 こうした各国の動きに対して、ロシアも黙ってはいない。ロシアにとって、北朝鮮問題は特に関心のある問題ではないといわれる。ロシアは、やはりヨーロッパを向いているのだ。北朝鮮は、ウクライナやシリアとは異なり、はるか離れた極東に存在し、中国の影響下にある国である。「北朝鮮はソ連が生み中国が育てた」とは、よく言われることだ。

 それでもロシアは、大国としてのステータスを維持するために、この機会を利用しようとするだろう。ロシアは、極東における中国の圧力の高まりを警戒している。北朝鮮をめぐって米中が軍事衝突すれば、ロシアにとって有利な状況が生まれる。まず、米国の関心が北朝鮮に集中することだ。米国は、中国と軍事衝突すれば、ウクライナや中東どころではなくなってしまう。

 より重要なのは、軍事衝突によって米中双方が疲弊し、ロシアの影響力が相対的に向上することである。米中両国の疲弊は、米国のロシアに対する圧力が下がるという直接の効果の他に、中国がロシアの要求に従わざるを得ない状況を生み出す。

 ロシアは、こうした状況を創り出すために、人道支援のためという他国と同様の口実をつけて太平洋艦隊の艦艇を出動させれば良い。複数の国の軍隊が狭い地域に集まることで、北朝鮮周辺の軍事的緊張を高め、状況をより複雑にすることができるからだ。さらにロシアは、中国の背中を押して米国とより厳しく対立させるために、軍事装備品を提供することができる。もちろん、無償で提供する必要などない。中国はお金持ちで、ロシアの軍事技術を必要としているのだ。

中国に対する米国の厳しい姿勢

 中国は、こうしたロシアの思惑を理解しているが、米国の影響力に対抗するためにはロシアの協力を仰がなければならないことも理解している。米国は、すでに大国間競争の時代に入ったと認識し、「より大きなリスクを負う戦略」へと戦略を転換した。2018年10月に行われたペンス米副大統領の発言は、こうした米国の認識と意志を示すとともに、中国に対する米国の厳しい姿勢を改めて示している。

 2018年に入って米国が発表した複数の「報告書」は、こうした潮流の中で発表され、米国の対中認識をより具体的に示している。例えば、8月16日に米国国防総省が発表した「中国軍事力に関する年次報告書」は、中国のAI等先端技術を用いた兵器開発に対する警戒感を露わにすると同時に、「中国軍が米国や米国の同盟国に対する攻撃訓練を行っている可能性が高い」とした。

 また、8月24日に、米国議会の政策諮問機関である米中経済・安全保障問題検討委員会が発表した「中国の海外における統一戦線工作」という報告書は、米国における中国メディアや孔子学院の活動に警鐘を鳴らしている。米国では、プロバガンダやスパイ活動まで含む中国のパブリック・ディプロマシーに対する警戒感が高まっており、こうした中国の一部の動向に対してFBIも捜査を行っている。

関連記事

新着記事

»もっと見る