2022年7月2日(土)

食の安全 常識・非常識

2011年8月22日

»著者プロフィール
著者
閉じる

松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

 イギリス政府が専門家を集め、内部被ばくのリスクについて検討したことがありますが、ECRRの主張はあまり取り入れられませんでした。先日、日本の食品安全委員会も世界で出された3300の論文を集めてリスクについて検討し、ECRRの研究者の論文も俎上に乗りましたが、報告書で少し触れられた程度です。

 個人的な見解を書くと、ECRRの主張は仮定に仮定を重ねて現実離れしており、もはや科学ではないように見えます。しかし、100mSvよりも低い線量での内部被ばくのリスクについて、だれもが納得できる“決定版”となる証拠をICRPが提示できているわけでもありません。私たち市民は、科学の世界においてこの部分は「不確実」であることをしっかりと意識しておかなければならないのです。

 しかし、日本のマスメディアは、「警告を出すことがメディアの正義」と思い込んでいる節がありますし、「危ない」というニュースの方が人目を引き、視聴率を上げたり販売部数を増やしたりすることもできるため、どうしても警鐘報道に走りがち。そして警鐘を鳴らすのにECRRの主張はぴったりです。その結果、一般市民は「内部被ばくは危ない」という情報ばかり目にする、という状態になっているのです。

ただし、子どものリスクには注意が必要

 もう一つ、多くの人たちが気にしているのは子どもへの影響です。ICRPの一部の委員は「子どものリスクは成人よりも3倍程度高い」と発言しています。子どもは、細胞分裂が盛んなので放射線に対する感受性が高いのです。

 それに、40代、50代の成人が10年後にがんになるのと、子どもが成人前にがんになるのでは、人生に置ける影響の重みはまったく異なります。そのため、子どもの放射線被ばくについては、大人よりも低減を目指す必要がある、というのが科学者の一致した意見です。

 ただし、チェルノブイリ周辺でも、100mSvを下回る被ばくでは、リスクの上昇は確認されていません。また、もっと低い線量で小児白血病患者が増えたという論文が2010年に出ましたが、調査に問題があり統計処理にも間違いがあるとして、評価はされていません。

 福島県の汚染の程度が高い地域に住む0〜15歳の1080人を対象に3月、実施された調査では、598人が甲状腺の被ばくなし、482人が甲状腺の被ばくあり、でした。被ばくが検出された子どもであっても、チェルノブイリで甲状腺がんのリスク上昇が見出された線量を大きく下回っています。ただし、この調査は不確実性の大きいもので、今後の詳細な調査検討が待たれます。

さて、京都の送り火のリスクは

 さて、ここまで説明してやっと、京都の送り火のリスクについて検討することができます。

 このあたりが、放射線のリスクを語ることの難しさ。「こんなに長くちゃ、読んでいて息切れするよ」と言われそうですが、あと少し、お付き合いください。

次ページ 日常的に降下している放射性物質

関連記事

新着記事

»もっと見る