2022年6月27日(月)

食の安全 常識・非常識

2011年8月22日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

喫煙、高塩分の食事、飲酒…
高い発がんリスク 

 世界には、自然の放射線が年間10mSvを超える地域もありますが、発がんリスクの上昇は観察されていません。自然放射線はどこの地域にもあり、世界の平均は年間2.4mSv、日本は1.5mSvです。

 最近はがんの原因は放射線ばかりではないよ、ということもかなり知られてきました。国立がん研究センターが、がんのリスクを比較できる表をウェブサイトで公開しています。

がんのリスクについて、がんになる要因を持つ群と持っていない群(対照群)とを比較し、対照群のリスクを1とした時の相対的なリスクの大きさを示している。国立がん研究センターの疫学調査「JPHCスタディ」の成果を基に、同センターが公表した。 (出典:国立がん研究センターウェブサイト資料から一部抜粋)
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 これを見ると、夫がたばこを吸い自分は吸わない、つまりは受動喫煙している女性のがんリスクは夫も自分も吸わないという女性の1.02~1.03倍。ましてや、自分で喫煙している人は……。タバコを吸う人は、表をじっくりと見てください。

 意外なところでは、高塩分の食品もがんの要因です。この表の基になった論文によれば、塩漬け魚や干物を多く食べる人の発がんリスクは食べない人の1.11倍、タラコなどの塩漬け魚卵を多く食べる人では1.15倍です。

 このほかのリスク要因は、飲酒や肥満、やせ、運動不足、野菜不足など。それらに比べて100mSv未満の放射線被ばくのリスクは、あったとしても低く検出不可能、というのが国立がん研究センターの“見立て”です。

「低線量の被ばくリスクははるかに大きい」
という主張

 ところが「低線量の放射線のリスクはもっとうんと大きい」と主張する組織があります。焦点は内部被ばく。放射線被ばくには、放射性物質が人の体の外にあって放射線を受ける「外部被ばく」と、人の体の中にある「内部被ばく」があります。欧州放射線リスク委員会(ECRR)という団体がICRPなどに異議を唱え、福島原発の事故についても将来、がん患者が大量発生すると試算を発表しています。

 どちらが正しいのか? 科学の世界には裁判所があるわけではなく、だれも裁定するわけではないので、外から見ると判断しにくいでしょう。このあたりが、世間の大混乱の元となっています。

 客観的に学術界の動向をとらえると、ECRRの主張を支持する科学者もいますが、大方の科学者はICRPの方に妥当性がある、と受け止めています。科学論文は、内容が優れていると質の高い学術誌に掲載され、ほかの科学者から数多く引用されることになります。でも、ECRRの科学者の論文の掲載誌は評価が高いとは言い難く、引用もほとんどされていません。

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