2024年4月24日(水)

ちょっと寄り道うまいもの

2011年9月2日

 さて、河岸を変えよう。電車で川越まで戻る。ここには「コエドビール」がある。小江戸のビールである。ブティックビールと最近では呼ぶらしいが、この大手ではないビールの世界ではすでに有名である。評価も高い。生を飲ませる店も川越のみならず広がっているし、瓶も缶も作られている。

 どうせなら、その御本家で飲もうという算段だ。製造元の協同商事に聞くと、「小麦市場」という店を薦められた。かつては直営で、しかもその場所でも醸造をしていたというレストラン。今も醸造設備はあるし、各種の生が良い状態で飲めるところである。

 川越らしく、サツマイモも使ったラガータイプの紅赤(べにあか)。小麦を使った、その名も白。黒ビールは漆黒。それに大手にも一般的なピルスナータイプの瑠璃(るり)と伽羅(きゃら)。

 小さめのグラスにお願いして、ずらりと並べて飲んでみる。それぞれに完成度も高い。キャラクターも立っている。偏差の幅が大きく、楽しい。ピルスナーも日本のビールというよりも、ヨーロッパで飲んだ小さな作り手のものを思い出す味わい。

 社長の朝霧重治さんに会ったら、なるほど、というお話。協同商事は、そもそもが農家と生協などの中間で流通、あるいは有機栽培などの世話をするようなことから発した会社なのだ。ビール造りもその延長線上にある。ヨーロッパから職人を呼び、五年。それを継承して……という話に、真っ当なビールを造ること、大手のそれとは違うものを造ることへの執念を感じた。その結実の味わいなのだ。

 そうそう。補助金が出るからとか、まちおこしにということで始めた第三セクターのそれなど、たいてい、消えてしまった、というのも興味深い話。いま、残っているところは、かなり淘汰された後のものゆえ、さほどヘンなものはないとも。うーん。知っている世界と重なる。普遍性のある話ではあるまいか。

 「とりあえず」ではないビール。探して回るのは、飲み手もまた試される旅かも。

■麦雑穀工房マイクロブルワリー
東武東上線小川町駅から徒歩約3分
埼玉県比企郡小川町大塚1151─1
☎0493(72)5673
営業時間/11時~21時(休日は20時まで)
定休日/月曜、火曜
■小麦市場
東武東上線川越駅からバスで福田下車、徒歩約3分
埼玉県川越市福田59─1
☎049(228)0800
営業時間/11時~22時
定休日/月曜
■協同商事 コエドブルワリー
埼玉県川越市今福2908─2
☎049(244)6911

◆ 「ひととき」2011年9月号より

 

 

 

    


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