2024年11月22日(金)

ちょっと寄り道うまいもの

2011年9月2日

 「とりあえず、ビール」が嫌いだ。

 そんな消極的な理由で選ぶなんて、ビールに失礼ではないか。「××ビールが飲みたい」ということでなければ。それが酒飲みの矜恃ではないか。そのくらい意志を持ち、主体的に選んで飲みたいと思うのだ。

 とはいえ、日本では「AかBか」と聞かれても、どちらでもと答えるしかないような没個性的ビールが多いのもまた、事実である。まあ、最近は少しはバリエーション豊かになっているような気もするのだけど。

 そして、少しでも爽やかな風を感じると、余計に「とりあえず」ではないビールを飲みたくなる。この季節、そんなビールを訪ねる小旅行も楽しいかと思い立った。暑気ならぬ残暑払いの旅。

 向かった先は埼玉県の小川町。池袋から私鉄の急行で一時間ほどかかる。車窓からの眺めが、延々と続く住宅地から緑の林やら畑やらが多くなるあたり。江戸時代からの和紙の里。

麦雑穀工房マイクロブルワリーの二代目、鈴木夫妻。天然酵母のパンも評判だ

 「麦雑穀工房マイクロブルワリー」を訪ねる。駅から商店街を歩いて三、四分。壁には一面、各地の地ビールの空き瓶。如何にも手作りのカウンターと椅子。気軽な飲み屋の風情である。奥の醸造用タンクさえ見えなければ。

 大学の教員(それも、電子工学!)を辞めて、近くで自給自足的農耕生活を目指した先代、馬場勇さんが、「栽培していた麦の新しい活用法(製粉の手間もない)」として始めたというもの。今、馬場さんは材料の栽培に集中し、娘の由実子さんとそのご主人(こちらはかつてのホテルマン)、鈴木等さんが跡を継ぐ。自家製の食材から由実子さんが作るつまみと、鈴木さんが店の裏で造るビール。外国ではよく見かけるスタイルだが、これほどの可愛らしいスペースは知らない。ガレージサイズの醸造所。

 看板商品の雑穀ヴァイツェン。小麦をたっぷりと使った白ビールの系統に雑穀も加えたオリジナル。奔放にして、新鮮な味わい。雑味も感じるが、それがまた愛おしい。庭で摘んだというブルーベリー入りのエール(イギリスに特徴的な上面発酵)のフルーティーな香りも好ましかったが、特に気に入ったのが、これも季節ものだという山椒入りの黒ビール。山椒の刺激がみごとに黒ビールの風味にアクセントを与える。

 あれこれつまみつつ、飲んでいて、「粗にして野だが、卑ではない」という言葉が浮かぶ。大手の製品のお行儀の良さはない。荒っぽい感じもないではないけれど、志が味になっている。つまみも派手ではないが、滋味そのもの。満ち足りる。


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