同博士は、ベンガジで大規模な反カダフィデモの発生した2011年2月15日の直後に帰国し、国民評議会の主要メンバー等と今後の組織作りの準備に当たっていた金融・経済の専門家である。米国のミシガン州立大学で金融及び経済学で博士号を取得し一時帰国していたが、1976年以降は米国に居を移しワシントン大学で経済学ほかを教えていた。
注目される石油権益の行方
リビア内戦の発生後、反カダフィ派を支持してきた国内石油企業AGOCOのアブデルジャリール・マユーフ情報担当者は、8月23日、「我々はイタリア、フランス、英国といった西欧の石油企業とは問題を抱えていない」「しかし、ロシア、中国、ブラジルとは政治問題があるかもしれない」(ロイター通信 2011年8月23日)と述べ、今後のリビアの石油権益の取り扱いにおいて、内戦の当初から反カダフィ派を明確に指示した仏英伊米などの諸国とそうではなかった中露ブラジルなどの諸国で差異が生じる可能性を示唆した。
但し、イタリアのENIについては、内戦の当初、反カダフィ派を支持しなかったことが長期的には響いてくるとの全く異なる見方も出ている。この点についてドイツのシンクタンクBIGS-ポツダムのステファフォ・カセルターノ上級研究員は「短期・中期ではENIに何らリスクはないと思う。如何なる政府も現金を必要とするので早期に生産を軌道に乗せたいと考えるが、それにはENIを必要とする」(同上)と解説し当面問題はないと見る。但し、「その後については、(中略)見極めねばならない」(同上)と述べ、長期的な報復の可能性を排除していない。
実際、内戦の当初、介入に二の足を踏むイタリアをしり目に英仏米はいち早く反カダフィ派の支援を打ち出した。イタリアのベルルスコーニ首相は、カダフィ大佐との良好な関係を慮ってか、反カダフィデモの起きた当初沈黙を保っていた。その後、NATO軍の攻撃に加わったものの、その時にも、介入に同調することを余儀なくされたものであるとの釈明をイタリア国内で行っていた。
こうしたこともあってか、イタリアのフラティニ外相は、カダフィ政権の崩壊直後、石油生産の復旧を目指してENIのスタッフがリビア入りしている点を強調した。機を見るに敏なイタリアのこの動きについて、ビジネス・モニター・インターナショナル誌で石油・ガス・アナリストを務めるジャスティン・ジェイコブズ氏は「ENIが早期に石油生産を再開すれば、リビアの新政府から好意的な取り扱いを受けることになろう」(ロイター通信 2011年8月23日)と語り、石油生産の回復で早期に新政府に協力することで心証を良くできるためだろうと見ている。
また、OPSインターナショナルのガビン・ドゥ・サリス会長は「内戦時に反カダフィ派を支援した諸国には明らかに恩恵があるだろう。但し、そうした恩恵も早期に消えてしまおう。そこで英国やフランスの企業は出来るだけ早急にリビアに戻ろうとしている」(同上)と分析する。
カダフィ後のビジネス権益の行方を最も気にしているのが、最後まで国民評議会をリビアの代表と認定することに二の足を踏んでいた中国である。中国はリビアに石油を含めた投資案件が21件、事業案件が50件もあり、合計額は3兆円を超すと見られる。カダフィ政権の崩壊後、中国政府の高官がいち早く自国の事業権益の保護を求めたり、国民評議会と親密なフランスに接近し石油権益などの維持を目指すなど巻き返しに必死となっている。
但し、その中国も、ビジネスマンは既に8月上旬の時点で欧米諸国に混じって国民評議会の拠点ベンガジ詣でを行っている。同様の積極的な動きをしているのが韓国のビジネスマンである。このように欧米や中韓のビジネスマンは8月上旬の時点で、カダフィ政権は早晩倒れるとの認識の下、新体制移行時のビジネスの確保に向けて動き出している。我が国を含む各国政府にとって、リビアに安定した民主政権が誕生するよう制度・法制面などで支援することが今後重要となる。しかし同時に、我が国企業にも復興・再生ビジネスで遅れを取らぬよう機敏に行動することを求めたい。
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