観客を一瞬も飽きさせないアイデア
客電が落ちると、観客の視線は舞台の大型スクリーンにくぎ付けとなった。上映されたのはこの日のために生徒有志が制作した「オープニングムービー」。2018年に大ヒットしたJ-POPや映画のパロディで、生徒が次々とダンスを披露していく。会場がひときわ沸いたのは工藤校長が登場し、校長室で踊っているシーンだった。他にも先生たちが登場する場面が随所に盛り込まれていて、生徒席からの歓声も止まらない。
「何これ、超レベル高いね……」
保護者席の周辺からは、そんな驚きの声が聞こえてくる。筆者も同感だった。誰もが分かるように流行を押さえて、学校中のさまざまな景色や登場人物を生かして作り込まれた映像は、編集クオリティも素人レベルだとは思えないほどだ。
工藤校長をはじめ、麹町中学校の教員の方々から何度も話を聞いてきた立場としては、何気ない替え歌の歌詞にも、はっとさせられるものがあった。「麹町中学校に言いたいことがある!」として、学校のちょっとおかしな部分をユニークに紹介していく流れの中で出てきた一節だ。
「昼休みにベランダで遊んでいたら 先生にめっちゃ叱られる〜♪」
映像では歌に合わせて、実際に先生がベランダで遊ぼうとする生徒を鬼のような形相で叱るという演出が組まれていた。服装や頭髪のことで口うるさく言うことはないけど、「生徒の命に関わること」は絶対に妥協せず、厳しく注意していこう……。職員室で共有されている先生たちの思いは、生徒にもしっかりと見えているのではないか。そんな風に思わされたのだった。
オープニングムービーに続いては、生徒会長のあいさつとともに麹中祭のテーマが発表された。「Yourself 〜楽しみ方は自分しだい〜」。観客を楽しませるという最上位目標に沿って生み出されたテーマだ。観客の中には生徒一人ひとりも含まれている。自分自身が全力で楽しむこともまた、最上位目標に向けて必要なことなのだろう。
演目は自由に曲を選んだクラス合唱から始まる。昨年は勝ち負けを決めていたが、今年はそのルールをなくした。これも「楽しみ方」の一つだ。その後は各学年による合唱や、特別支援学級の生徒による琴とハンドベルの演奏、オーディションで選ばれたバンドやダンス、さらに吹奏楽部やダンス部、演劇サークルなどが登場した。いずれも、中学校の文化祭とは思えない、非常に高いクオリティだった。
舞台の転換中も、観客が手持ち無沙汰になることはなかった。今年から導入されたという「幕あいの演出」が花を添えたからだ。アニメソングのイントロクイズや「あっち向いてホイ」大会、フラダンス、腕相撲大会、バイオリンとシンセサイザーによる演奏、居合道演舞など、限られた時間で趣向を凝らした出し物や演目が多数用意されていた。大人の世界でよく見られるような「宴会芸」とは一線を画す、高いレベルのパフォーマンスと円滑な運営に圧倒されるばかりだった。
この場にいると、どうしても信じ難く思えてしまう。心から楽しめるこの「祭」は、すべて生徒たちの手で企画され、準備されたものなのだ。