問題を感じれば指摘するのは当然
忌憚なく意見し合ったのは実行委員会の中だけではない。「観客を楽しませる」という大きな目的に向かって、舞台の出演者たちとぶつかることもあったという。豊田さんは演劇サークルとの間の議論について明かしてくれた。
「もともと演劇サークルからは『持ち時間を50分ほしい』と言われていました。でもリハーサルを見た結果、『観客としては、50分は長過ぎる』という話をしたんです。観客目線の実行委員会と、演者として伝えたいことにこだわる演劇サークルでぶつかった形です。いろいろと議論して、結果的には40分という持ち時間に落ち着きました」
観客から驚嘆の声が漏れるほど高いレベルのパフォーマンスが続いたのは、生徒たちが独自で開催し、厳しい目線を投げかけたオーディションの成果でもある。しかし春木さんは、そのあり方にさらなる問題提起をする。
「有志で組むバンドやダンスチームはオーディションで選ばれなければ出演できません。一方で、吹奏楽部やダンス部、演劇サークルは、オーディションに関係なく出られるんです。そうした特権はどうなの? という議論もしました。どうやって観客を楽しませるかを問わなきゃいけないのに、パフォーマンスの中身は任せっぱなしになっているという問題もあります」
2人はどこまでも冷静だ。学校の公式活動である部活動からの出演のあり方に異議を唱えるのはなかなか勇気がいることだとも感じるが、豊田さんは「問題を感じれば指摘するのは当然だと思います。対立があって議論になるのも当然の流れ。特に『言いにくい』とか感じることはないですね」と言う。
筆者としては、実行委員会の会合を見ていて驚いたことがもう一つあった。誰もが「ため口」で会話しているのだ。上級生に対しても敬語は一切使わない。例えば2年生の豊田さんも、3年生の春木さんに対して完全に「ため口」である。
「麹町中はもう、そんな感じです(笑)。先輩も敬語を使われるのには慣れていないと思います。だから上級生のほうから『ため口でいいよ』と言うんです。私はもともと上下関係がはっきりしている感じが嫌いなので、このスタイルがいいですね」
そう春木さんは教えてくれた。豊田さんもうなずきながら話す。
「僕は剣道部で、基本的に礼儀作法の大切さは理解しているつもりですが、会話はため口が普通ですね。相手が3年生だからといって遠慮することは一切ないです。逆に、意見の対立が起きて議論している状態で敬語を使うほうが難しい。もしエキサイトし過ぎたら、周りがちゃんと止めてくれます(笑)」。
企画委員会として集まっているのだから、オープンな話し合いができなくなったら何の意味もない。ため口にはそんな背景もあるのだと2人は語った。