かつての横浜中華街と言えば、一見さんには入りにくい、堂々たる店構えをした高級中華料理店が軒を連ね、何とも形容し難い独特の雰囲気の街であったが、いまや1500円前後の食べ放題の中華料理を出すところばかりだ。なかには、閉店した高級店の建物をそのまま利用した「居抜き」の店舗もある。中華街の入り口近くに古くからあった土産店の跡地には、東京都内にチェーンを持つ廉価なすし屋がなぜか開店した。
ここ数年、中華街に来る客層にも大きな変化があった。バブル最盛期には、グルメブームの波に乗って高級中華料理を求めて社用族などが大盤振る舞いをする姿が見られたが、いまやめっきりとその姿が減った。それに換わって焼きそば一人前を二人で分け合い、それも割り勘で支払う若者の客が主流になりつつあるのだという。
新華僑の素顔
「現在、中華街で新規店を次々と出している新華僑は3つのグループがある。それらの勢力はいずれも残留孤児の関係者だということになっているが、なぜか残留孤児が多い中国東北地方の出身者ではなく、みな福建省の出身者人ばかりだ」。祖父の代から中華街にいる老華僑はいう。
路上で、「甘栗売り」、「食べ放題」の客引きをしている中国人に声をかけてみると、ほとんどが福建省福清市の出身者で占められていることがわかる。彼らは一様に留学生だと称しているが、毎日路上で客引きに専念している彼らがいつ学校へ行っているのか実に不思議である。もし彼らが留学生でないとすれば、一体、在留資格はどうなっているのか甚だ疑問が残る。
そもそも福建省は古くから華僑を多く排出している土地柄だが、なかでも福清市は密航の斡旋をする「蛇頭」組織が複数存在する拠点となっている。福清市出身の中国女性は来日するために偽装結婚という手段を用いることも多いく、入国管理局も警戒している。
中華街の近くにある横浜きっての歓楽街・福富町は、蛇頭の斡旋で不法入国した中国人が多いと言われている。警察関係者は、その福富町と中華街のつながりの深さを指摘する。警察や入管が密航事件で容疑者を追い詰めても、中華街に逃げ込まれると、その足取りがぷっつりと切れてしまうという。「不法入国者がいったん、中華街に潜り込んでしまったら、不法滞在などで摘発するのが難しい」
さらに、大手中華料理店のマネージャーは、「中華料理のコックの免許を中国地方政府から買い取り、料理もできない中国人をコックに偽装し技能をもつとして日本の在留資格を獲得させ、来日するや中華街に派遣して働かせる組織もある」と打ち明ける。中華街の中には、偽コックの来日に必要な雇用契約書などの必要書類を20万円ほどで密航ブローカーに売り、さらに彼らの来日の手数料として80万円ほど蛇頭組織から受取っている新華僑の料理店まであるのだという。
これらの費用は、偽コックたちが借金する形で支払われる。彼らはその借金に利息を加えた額を返済し終えるまで、ただ働きに近い状態で働き続けなくてはならないのである。