2022年7月2日(土)

復活のキーワード

2011年9月14日

»著者プロフィール
閉じる

磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

ジャーナリスト

千葉商科大学教授(4月から)。1987年日本経済新聞社に入社。フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務め、11年に独立。著書に『2022年、働き方はこうなる』(PHPビジネス新書)など。

 シンガポールは都市計画の総合的な青写真として「コンセプトプラン」を持ち、ほぼ10年に一度見直している。01年に発表した「コンセプトプラン2001」では、1住み慣れた地域に新しい住宅2都市部住宅の高層化3多様な娯楽4ビジネスの自由度の拡充5世界的なビジネスの中心地6鉄道網の整備7独自性の重視─の七つが柱として掲げられた。国家が一方的に計画を押し付けるのではなく、タタキ台を国民に公表し、意見を公募するなど広く英知を結集して作られた。

 住宅や交通などインフラの整備が目立つのは、大幅に人口を増やすために必要な基盤だったからだ。実際、その後の10年でシンガポールは人口を大幅に増やした。10年前に403万人だった人口は現在500万人を突破している。日本同様、豊かになった国民の間での出生率は低いため、人口増加の原動力となったのは移民政策だった。人口508万人のうち国民は323万人で、これに永住権保持者が54万人いる。さらに「一時滞在者」資格の外国人が131万人いるのだ。ちなみに将来は650万人にまで増やす計画を描いている。

“優秀”な外国人をヘッドハントする

 移民政策の柱は、シンガポールの国づくりに役に立つ“優秀”な外国人を世界中から集めることだ。そのために、政府は条件を付けて永住権を与える政策を取ってきた。永住権保持者はこの10年でほぼ2倍になった。世界の富裕層や事業家、金融マン、最先端技術者、学者など、自国にプラスになる人材を政府職員が勧誘して歩いている。

 もちろん日本人の富裕層などもそのターゲット。中央銀行であるシンガポール金融管理局(MAS)の職員が、日本の資産家などを訪ね歩いている。

 「金融投資家スキーム」と呼ばれる移民促進策では、金融資産2000万シンガポールドル(約12億円)以上を保有する資産家を対象に、シンガポールの銀行に一定額を移した場合に永住権を与える。移住者の数などを見ながら必要額が見直されており、11年からはそれまでの500万シンガポールドル(約3億円)から1000万シンガポールドル(約6億円)に引き上げられた。

 世界のビジネスの中心地にするために、シンガポールの利便性や快適性、娯楽性を高めようという国家ビジョンに従って街づくりが行われている。空港を世界のハブ(乗り継ぎ地)にするという戦略も明確だ。1981年の開港以来、拡張を続け、今では4つのターミナル(うち1つは格安航空会社専用)を持ち、さらにもう1つターミナルを増設する計画を持つ。

 24時間オープンしている空港は利便性や快適性を追求。旅行者の間で世界でも最も人気の高い空港の一つになった。10年の乗降客数は4200万人に及び、成田空港の3400万人を大きく上回る。人口が20分の1であることを考えると、驚異的な数といっていい。

 世界から資産家を集めているのも、主要産業の一つと位置づける金融業を拡充するためだ。プライベートバンキングや投資信託、ヘッジファンドなどの国際拠点として急速にその地位を高めている。

 10年には、自動車レースのF1を誘致した。オペラ座やカジノなど娯楽施設に力を入れるのは「生活の質」を高めること。劣悪な生活環境では、世界の高度人材は決して集まって来ないという発想がある。

 00年に1652億シンガポールドルだった実質GDPの額は10年に2845億シンガポールドルと1.7倍になった。この間に日本は503兆円から539兆円と7%増えたに過ぎない。

 少子高齢化が進む日本は、もはや成長を取り戻すことはできない、という声をしばしば聞く。果たして本当だろうか。日本にはまだまだ潜在力がある。世界中からヒト・モノ・カネを集め、より豊かな生活の質を追い求める明確な国家ビジョンを持つことだろう。諦めるのはまだ早い。
 

◆WEDGE2011年9月号より



 

  


「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
週に一度、「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。

関連記事

新着記事

»もっと見る