2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年9月20日

 馬総統の指導力への評価も決して高くはない。09年8月には大きな被害を出した台風8号への対応の遅れを批判され、謝罪した。TVBSの世論調査は、馬氏の統治能力について「信頼できない」は46%と「信頼できる」38%を8ポイントも上回った。

懐柔策に疑念も

 08年3月の総統選で、馬氏は58.45%という過去最高の得票率で、民進党の謝長廷氏を破り圧勝した。謝氏敗北の主因は、勝敗の鍵を握る無党派層の民進党政権8年への極めて厳しい評価だった。つまり陳水扁政権の「腐敗」、「対中関係の悪化」、「経済不振」の3点への不満だった。馬氏は「経済優先」と「対中和解」を掲げ、清廉なイメージと自らの台湾土着化をアピールして勝利した。

 陳前総統は収賄事件などで懲役17年6月の判決が確定し、昨年12月から台北刑務所に収監されている。民進党自体は09年12月の統一地方選、昨年11月の5大市長選で善戦して、早期の党勢回復を印象づけた。

 台湾では党旗の色から国民党を「青」、民進党を「緑」と呼ぶ。友好党も含めて青勢力と緑勢力の基礎票はそれぞれ4割前後、残り2割の無党派層が総統選の帰趨を決める。08年の総統選で、謝氏はすさまじい逆風の中、41.55%を得票し、緑の底力を示した。

 中国の「善意」についても、統一という最終目標に向けた懐柔策であることがはっきりしている以上、「中国にのみ込まれる」という危機感を持つ人が今後も増えてくる可能性はある。

 台湾の元外交官は「馬氏再選が本当に危うくなれば、中国が台湾を狙うミサイルを撤去する可能性もある」と予測した。しかし、そうした国共合作が台湾人意識を強める住民の警戒心を高め、民進党に流れる票が増えるかもしれない。

 中国の台湾総統選への干渉は、常に「両刃の剣」。青と緑のどちらに有利に働くか、読みにくい。また、人口2300万、有権者数1700万と小さい台湾の選挙結果は、投票直前のムードに大きく左右されやすく、予断は許せない。

 蔡氏は7月から台湾全土73カ所での遊説を始めた。地道なキャンペーンの中で、台湾の自立を堅持しながら、中国と共存する「新台湾」の未来像を有権者にきちんと提示できるか、「小英(英ちゃん)ブーム」を起こせるか、が勝敗の鍵となりそうだ。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信北京特派員)、平野聡氏(東京大学准教授)
※8月より、新たに以下の4名の執筆者に加わっていただきました。
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)
◆更新 : 毎週月曜、水曜

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