来年1月の台湾総統選まで4カ月。与党、国民党の馬英九総統(61)は再選を目指し、対中融和路線によって台湾経済を復活させた「実績」を誇示する。一方、対中独立志向の野党、民主進歩党(民進党)は4年ぶりの政権奪還を期す。同党の女性主席で総統候補の蔡英文氏(55)自身は対中穏健派と目されるが、対中政策の新機軸はまだ打ち出せず、苦戦を強いられている。総統選の最大のテーマは対中政策。国民党と中国共産党は“国共合作”により、蔡氏を追い落とし馬氏再選を狙う。蔡氏は今後どこまで馬氏に迫れるのか、中台関係の現状と台湾総統選の行方を探った。
選挙公約で支持率低下
8月23日、蔡氏は今後10年間の台湾発展戦略を示す民進党の政策綱領「十年政綱」を発表した。事実上の選挙公約であり、対中政策については、台湾住民の大部分が望む「現状維持」(統一も独立もしない)を基本として、新たな中台間の枠組みをつくる方針を打ち出した。
蔡氏はまた、馬政権と中国が関係強化の根拠にしている「1992年合意」の存在自体を否定し、まずは全台湾で議論をして、どんな対中関係を目指すか「台湾コンセンサス」を形成すべきだと訴えた。中台が締結した貿易自由化のための経済協力枠組み協定(ECFA)についても「内容が不透明だ。民進党が政権をとったら、民主的な方法で見直したい」と述べた。
92年合意とは「『一つの中国』の意味について、中台がそれぞれの解釈で表明する」という考え方。中国は「中華人民共和国」、台湾は「中華民国」と独自の解釈ができ、中台が92年の交渉で合意したとされる。当時、台湾の総統だった李登輝氏は、合意の存在を否定しているが、馬政権と中国は玉虫色の合意を根拠とし(1)ECFA締結など経済関係強化(2)中国人の台湾旅行の条件緩和(3)中台間の直行航空便の大幅増便-などを進めてきた。
馬政権は合意を否定した蔡氏について「良好な中台関係の基礎を壊そうとしている」と激しく反発。中国政府の台湾事務弁公室スポークスマンも翌24日に早速声明を発表して、民進党は「一辺一国(中台は別々の国)」「台湾独立」の立場をなお改めていないと批判。「合意否定は受け入れられない。否定すれば、両岸関係は再び不安定化する。平和発展の成果が壊されることを望まない」と強い警告を発した。
十年政綱を発表後、蔡氏の支持率は目に見えて低下した。今年4月、蔡氏と馬氏が総統候補に決まったばかりのころ、蔡氏の支持率は高く、国民党系メディアの世論調査でも馬氏をわずかに上回っていた。ところが最新のテレビ局TVBSの調査(9月13、14日実施)では、馬英九-呉敦義(副総統候補)の国民党ペアが48%、蔡英文-蘇嘉全(同)の民進党ペアが37%と11ポイントもの差がついた。中台関係の悪化を望まない無党派層が馬氏支持に回ったとの分析がなされている。
党内独立派に配慮か
本来、蔡氏は民進党の独立志向を抑制し、「現状維持」の世論に沿って、穏健な対中政策を形成することを目指した。十年政綱によって、そうした政策を実現するために党内をとりまとめ、党の基本政策を広く有権者に提示し、政権奪還につなげる狙いだった。当選するには無党派層の支持が不可欠であり、無党派層の支持を減らしたのは大きな誤算だっただろう。
民進党内では台湾独立派の勢力がなお強い。今のところ、蔡氏が中国に対して強硬とも受け取れる独立志向の基本原則を唱えるのは、党内の独立派への配慮があるのかもしれない。