2024年4月20日(土)

栖来ひかりが綴る「日本人に伝えたい台湾のリアル」

2019年2月2日

地方インバウンドのカギを握る「留学生」

 日本の地方でも最近は、自分たちの土地の魅力を再発見しながら伝える「地域ツーリズム」が盛り上がってきている。大金をかけて観光地らしく整備するよりも、身近にある文化や自然・環境自体の価値を見直し有効活用していこうとする動きだ。土地のもつ物語を言葉の壁のある外国人にうまく伝えていくのは簡単ではない。それにはまず、地域の人々がその土地の物語や脈絡・魅力を十分に理解していく必要があるからだ。

 山口県美祢市では今年1月に、台湾・韓国・中国から山口県に来た留学生を主な対象として、モニターツアーを実施した。石の産地という地域の特色を生かした発破見学から地元の寺での座禅朝食体験、懐中電灯を頼りに進む鍾乳洞探険、カルスト台地ハイキング/サイクリングなど、国定公園・秋吉台を擁する美祢市ならではの地域資源がふんだんに盛り込まれたプログラムで、それらの体験をSNSなどで発信してもらうのが目的だ。

台湾・中国から山口県内に在学中の留学生たち(画像提供:筆者)

 とくに地元の赤郷地区の方々が公民館で準備された宴会では、秋祭り伝統の神楽披露から餅つき、美祢の地酒に地域のお母さんたち心尽くしの郷土料理でもてなされ、特産の美東ごぼう入りのおでんには、根菜を使った日本の料理に馴染みのない若い留学生たちも「おいしい!」を連発、地域の方々とも交流が持て、今回のプログラムの中でとりわけ好評だった。しかし地域の側からすれば、たまのお客さんだからこういった歓待も可能かもしれず、農家の繁忙期であればそれどころではないだろうし、これらの体験を定期的なツアー商品として組み込むのは容易いことではないだろう。

お神楽のお姫様は留学生の参加型(画像提供:筆者)
美東ゴボウ入りのおでん(画像提供:筆者)

 一方で、別の可能性も感じた。企画した美祢市観光協会には、元々山口県立大学へ留学していたり地域の方と国際結婚をした中国人移住者もスタッフとして加わっており、中国語話者の多かった今回のモニターツアーにおいて、中心的な役割を果たした。過疎化が急速に進んでいる日本の地方において、現地で学んだ留学生がその土地に魅力を感じて住み続けることを決め、自分たちの国へ情報を発信してまた新たな旅行者を呼び込む、こうした動きが出てきているのである。極端な物言いをすれば、「地方インバウンド」の最終目標は「移住」であると言えるかもしれない。

参加した山口大学の台湾人留学生と筆者(画像提供:筆者)

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