今回のテーマは「2019年一般教書演説の見どころ」です。ドナルド・トランプ米大統領は2月6日午前(日本時間)、1年間の内政と外交政策を示す施政方針演説、いわゆる一般教書演説を米下院本会議場で行います。今回トランプ大統領は、2つの期限をかかえて一般教書演説に臨みます。
1つは、米国・メキシコとの国境沿いの壁建設費を巡る予算協議で、期限は2月15日です。トランプ大統領が合意した「つなぎ予算」は同日を過ぎると失効し、再び連邦政府機関の一部が閉鎖する恐れがあります。もう1つは、中国との通商協議で、こちらの期限は3月1日です。
本稿では、トランプ大統領の一般教書演説の狙いを中心に述べます。
米情報機関トップの見解否定
一般教書演説の第1の狙いは、米情報機関トップの見解を否定することです。というのは、情報機関の分析によって、トランプ大統領はメンツを潰された形になったからです。
米情報機関のトップが1月29日、上院情報特別委員会の公聴会で証言を行いました。そこで、ダン・コーツ国家情報長官は、「北朝鮮が核兵器と核の生産能力を放棄する公算は低い」という見方を示しました。北朝鮮の非核化に自信をみせてきたトランプ大統領と正反対の立場をとったのです。
コーツ長官が米議会に提出した「世界の脅威に関する評価報告書」を読みますと、「北朝鮮は大量破壊兵器のすべての備蓄と運搬システム及び生産能力を放棄する可能性は低い」「北朝鮮の首脳部は核兵器を体制の生き残りに不可欠とみている」と、報告書に記されています。
トランプ大統領はコーツ長官の分析に対して、即座に「自分が正しいと思う。時がこれを証明する」と述べました。
また、同大統領は2月3日に放送された米CBSニュースとのインタビューの中で、「ブッシュ(子)政権時代に、米情報機関はイラクのサダム・フセイン政権が大量破壊兵器を保持していると誤った分析を行った」と指摘し、反論しました。自国の情報機関をまったく信頼していないのです。
トランプ大統領は同インタビューで、2回目の米朝首脳会談の日程と場所を一般教書演説か、その直前に発表すると明らかにしました。そのうえで、コーツ長官の分析について「北朝鮮が非核化を放棄しない可能性があるが、同時に北朝鮮と非核化の取引をするチャンスもある」と答え、自身の立場を正当化しました。
これでトランプ大統領がメンツを保つために、2回目の米朝首脳会談で、北朝鮮と何らかの取引を行う可能性が一層高くなりました。非核化の取引が実現しなければ、コーツ長官の分析が「正解」になってしまうからです。
仮に米本土を狙う大陸間弾道ミサイル(ICBM)の搬出・解体と経済制裁緩和の取引が成立すれば、コーツ長官の分析は否定され、トランプ大統領は「北朝鮮が核兵器を放棄した」と支持基盤に訴えることができます。北朝鮮が核施設への査察官受け入れを承諾すれば、「北朝鮮が核の生産能力を放棄した」と豪語できます。
いずれにしても、一般教書演説における北朝鮮に対する言及の箇所は、コーツ長官の発言を意識したものになるでしょう。