今回のテーマは「モラー報告書の行方」です。マシュー・ウィタカ米司法省長官代行は1月28日、記者団の質問に対して2016年米大統領選挙を巡るロシア疑惑の捜査が、最終段階に入っていることを明かし、「間もなく結論に達するだろう」と回答しました。捜査の途中で、司法当局のトップがこのような発言をするのは異例です。
米メディアは、ウィタカ司法長官代行の発言を受けて、ロシア疑惑の捜査チームを率いるロバート・モラー特別検察官の最終報告書が、数週間後に出ると報じました。
ウィタカ司法長官代行はなぜこのタイミングで、異例の発言をしたのでしょうか。何がモラー特別検察官の最終報告書に対する懸念材料になるのでしょうか。
本稿では、トランプ陣営の元顧問で政治コンサルタントのロージャー・ストーン被告の起訴状を分析しながら、「モラー報告書」の行方について述べます。
2人のニクソン信奉者
ストーン被告は1月25日、司法妨害1件、偽証5件、証人買収1件を含めた7つの罪で起訴されました。同被告は、トランプ大統領と30年以上にわたる友人です。リチャード・ニクソン元大統領を英雄とみなし、背中に同元大統領の顔の入れ墨を入れています。
ウォーターゲート事件で弾劾に追い込まれる前に辞任を発表したニクソン元大統領は1974年8月9日、ホワイトハウスの庭園に待機している米大統領専用機(マリーンワン)に乗り込む前に、両腕を高く上げて二重のVサインをしました。ストーン被告も南部フロリダ州フォートローダーデールの連邦地裁から出てきたとき、このニクソン流のVサインを作ったのです。
ストーン被告はかなりのニクソン信奉者だといえます。以前述べましたが、トランプ大統領も若き頃、ニクソン元大統領から一通の手紙を受け取り、それ以来同元大統領の影響を受けています。
つながった点と点
24ページに及ぶストーン被告の起訴状を読むと、どの程度までモラー特別検察官の捜査が進んでいるのか、推測することができます。
まず起訴状には、組織名と人物名が匿名で書かれています。しかし、「組織1」は2016年米大統領選挙において、ロシア政府がハッキングをした民主党全国委員会(DNC)及びクリントン陣営のメール内容を公表した「内部告発サイト」ウィキリークスであることは容易に理解できます。
起訴状によれば、トランプ陣営の「上級スタッフ」が、組織1が今後もクリントン陣営に打撃を与える情報を所有しているのかを知るために、ストーン被告に接触しました。それに対して、ストーン被告は「組織1がクリントン陣営を傷つける情報を持っている可能性がある」と回答しています。
ストーン被告は、組織1がどのような内容のメールを、どのタイミングで公表するのかを事前に把握していたのです。
では、どのようにしてストーン被告は、ロシア政府がハッキングをしたメールを所有している組織1と連絡をとることができたのでしょうか。
起訴状には、(ウィキリークスの創設者で現在ロンドンのエクアドル大使館に身柄を寄せているジュリアン・アサンジ氏と思われる)組織1のトップとストーン被告の間に、「人物2」が仲介役を果たしたことが記されています。人物2はラジオ番組のホスト役で、ストーン被告と10年以上の関係があるコメディアンのランディ・クレディコ氏だといわれています。以前、人物2のラジオ番組に組織1のトップが、ゲストとして参加しています。
ストーン被告は、仲介役の人物2と少なくともメールのやりとりを30回行い、組織1のトップの動向を知り、その内容をトランプ陣営の「上級スタッフ」に伝えていました(図表)。モラー特別検察官は、約2年間の捜査の結果、やっと「点と点をつなげる」ことができたのです。