今回のテーマは「トランプに洗脳された男」です。マイケル・コーエン被告は2007年から、複合企業トランプ・オーガニゼーションの社員として働き、後にドナルド・トランプ米大統領の「火消し役」として顧問弁護士を務めました。コーエン被告は合計で約10年間、トランプ大統領に仕えてきたわけです。
これまでに起訴されたポール・マナフォート元選対本部長、マイケル・フリン元大統領補佐官、ジョージ・パパドポロス元外交顧問などの側近の中で、コーエン被告はトランプ大統領に最も近い人物であったといえます。ニューヨーク連邦地裁は12月12日、そのコーエン被告に脱税、米議会での偽証及び選挙資金法違反などの罪で、禁錮3年の実刑判決を言い渡しました。
本稿では、コーエン被告の証言並びにトランプ大統領の弁護団を率いる元ニューヨーク市長ルディ・ジュリアーニ氏の反論の分析を中心に述べます。
コーエンの重要証言
コーエン被告から数々の重要証言が飛び出しました。同被告は判決後、米ABCニュースのインタビューに応じ、その中で「トランプ大統領はロシアについて真実を語っているか」という質問に対し、「いない」と明言しました。ロバート・モラー特別検察官の捜査に協力している最中なので、同被告はロシア疑惑に関して詳細を語りませんでしたが、重要証言であることは確かです。
加えてコーエン被告は、トランプ大統領と不倫関係にあったとされるプレイボーイ誌の元モデルカレン・マクドゥーガル氏と、元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズ氏(本名ステファニー・クリフォード)に支払った口止め料についても語りました。同被告によれば、2人の不倫相手が告発した場合、「(大統領は)不倫関係が自分と選挙にどのような影響を与えるのかについて非常に懸念していた」というのです。これも重要証言です。
仮にこの証言が真実であれば、口止め料はトランプ大統領が主張しているような「完全にプライベートなもの」「単なる個人的な金銭のやり取り」ではなく、大統領選挙の結果に影響を与えようと意図的に行われたものになります。
焦点は選挙資金法違反
2人の不倫相手への口止め料について、以下で詳しくみていきましょう。
まずコーエン被告は、タブロイド紙「ナショナル・エンクアイアー」に、トランプ大統領とマクドゥーガル氏の不倫関係の記事が掲載されるのを阻止するために、親会社のアメリカ・メディア社(AMI)を通じて15万ドル(約1670万円)で記事を買い取り、もみ消しました。時期は、第1回大統領候補テレビ討論会が開催される1カ月前の16年8月です。
コーエン被告は、トランプ大統領の指示で行ったものであり、同大統領は口止め料の違法性を認識していたというのです。これも注目に値する証言です。
トランプ大統領のこの隠蔽工作とみられる行動について、コーエン被告と同大統領の友人であるAMIの最高経営責任者(CEO)デービッド・パッカー氏の証言は一致しています。
トランプ大統領は、ダニエルズ氏との不倫関係に関しても対策を講じました。同大統領とダニエルズ氏は、メラニア夫人がバロン君を生んだ2、3カ月後に不倫関係になったといわれています。コーエン被告は、ダニエルズ氏を黙らせるために取引をし、投票日直前のタイミングで、13万ドル(約1450万円)を建て替えて支払いました。
それに関して、トランプ大統領はコーエン被告に返済したと語りました。こここがポイントです。
トランプ大統領はコーエン氏個人に「献金」をしたとみなされました。選挙期間中における個人への献金額の上限はわずか5400ドル(約60万円)で、13万ドルはそれをはるかに上回る額です。従って、トランプ大統領も選挙資金法違反になります。