今回のテーマは「なぜトランプはムハンマド皇太子を擁護するのか」です。サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏が10月2日、トルコのイスタンブールにあるサウジ総領事館に入った後、殺害されました。カショギ氏は、結婚に必要な書類を入手するために、同総領事館に出向いたと言われています。
ドナルト・トランプ米大統領は、カショギ氏殺害事件に関与したと見られているサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子を擁護する立場をとっています。本稿では、その本当の理由を明らかにします。
サウジの「火消し役」と「擁護者」
米ワシントン・ポスト紙のコラムニストであったカショギ氏は、ムハンマド皇太子に批判的な立場をとっていました。同氏は、反体制派記者であったわけです。
カショギ氏殺害事件に関して、米中央情報局(CIA)は、ムハンマド皇太子による指示があったと結論付けました。にもかかわらず、トランプ大統領は、ムハンマド皇太子の関与について、同皇太子は「知っていたかもしれないし、知らなかったかもしれない」という声明を出して明言を避けました
加えて、トランプ大統領はムハンマド皇太子の「擁護者」の役割も演じています。サウジアラビアの米国への投資、石油価格の安定、イランに対抗する同盟国及び米国製の武器売却契約を取り挙げて、ムハンマド皇太子擁護の姿勢を崩していません。
トランプの本当の意図
では、なぜトランプ大統領はここまでムハンマド皇太子をかばい守るのでしょうか。
結論から言ってしまえば、ムハンマド皇太子を擁護することによって、実は自分に熱狂的な岩盤支持層を守っているのです。一歩踏み込んで言えば、すべて2020年米大統領選挙を見据えた言動なのです。
トランプ大統領は、サウジへの米国製の武器売却契約に関して、「サウジアラビアは大統領として最初に訪問した国である。自分が頑張って武器売却契約を結んだ」と強調しました。1100億ドル(約12兆円)の契約は、トランプ大統領の岩盤支持層の一角を成す軍需産業で働く労働者の雇用を守るとともに、拡大するためでもあります。
特に、トランプ大統領はサウジへの米国製の武器売却契約と南部テキサス州及び西部アリゾナ州を結びつけているフシがあります。
11月6日に行われた米中間選挙の上院選で、テッド・クルーズ上院議員(共和党)とベト・オルーク下院議員(民主党)が上院選で激しい戦いを展開したテキサス州は、軍需産業が盛んな州で、しかも大統領選挙において大票田の州でもあります。再選を目指すトランプ氏にとって、テキサス州は必要不可欠であることは言うまでもありません。
同様に、西部アリゾナ州にも軍需産業に関連する企業が集積しています。トランプ大統領は中間選挙終盤の10月19日、同州メサにあるフェニックス・メサ・ゲートウェイ空港の格納庫で、上院選を戦っていた共和党候補マーサ・マクサリー下院議員の応援演説集会を開催しました。その集会に筆者は参加しました。
トランプ大統領は、集会の前にボーイング、ロッキード・マーティン及びノースロップ・グラマンなどの軍需産業の最高経営責任者(CEO)と面会をしています。マクサリー下院議員は、接戦の末、民主党候補のカーステン・シネマ下院議員に敗れ、その結果、共和党はアリゾナ州における上院の議席を減らしました。20年米大統領選挙で、トランプ氏はアリゾナ州を死守しなければなりません。
つまり、サウジへの米国製の武器売却契約は、次の大統領選挙において自身の岩盤支持層である軍需産業で働く労働者に対する強烈なアピールになるのです。