2024年11月22日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2018年11月27日

G20の「ショー化」

 米議会上院では、外交委員会委員長ボブ・コーカー上院議員(共和党・テネシー州)と同委員会筆頭理事ボブ・メネンデス上院議員(民主党・ニュージャージー州)が11月20日、共同声明を発表し、ムハンマド皇太子がカショギ氏殺害の責任があるのか明確にするように、トランプ大統領に調査を求めました。

 コーカー上院議員、メネンデス上院議員、リンゼー・グラム上院議員(共和党・サウスカロラナ州)及びパトリック・リーヒー上院議員(民主党・バーモント州)は10月に、行方不明になったカショギ氏の調査を同大統領に要請しました。このときは、ムハンマド皇太子について言及しませんでした。しかし、コーカー・メネンデス両上院議員による2回目の調査要請では、ムハンマド皇太子の責任の明確化に焦点が当たっています。

 殺害及び拷問などの人権侵害をした外国人にビザ発給停止並びに資産凍結などの制裁を課す「グローバル・マグニツキー法」に基づき、大統領は120日以内に上院外交委員会の要請に対して回答をする義務があります。

 トランプ大統領はあくまでもムハンマド皇太子を擁護し続けるでしょう。米ワシントン・ポスト紙によれば、サウジアラビアのリーダーたちが、トランプ大統領にカショギ氏は、「国民の敵である」と語りました。仮にそうであるならば、同大統領は、カショギ氏と米CNNのジム・アコスタ記者のイメージを重ね合わせたことでしょう。

 もちろん、トランプ大統領は記者殺害には賛成していません。しかし、同大統領にとって国民の敵でフェイク(偽)ニュースを流す記者弾圧と排除はまったく受容できないものではないはずです。

 反体制派のカショギ氏の命と、サウジへの米国製の武器売却契約を天秤にかければ、岩盤支持層と直結する後者が優先されるのです。それはトランプ大統領には当然なことなのです。

 トランプ大統領は契約重視の判断に対して、メディア、米議会及び国民から非難を浴びることは百も承知です。しかし、ムハンマド皇太子擁護と武器売却契約の維持は、岩盤支持層の雇用を守るために取らざるを得ないリスクなのです。

 そうは言っても、トランプ大統領が歴代の米大統領が強調してきた自由、民主主義、人権といった価値観を語らずに、契約を重視した点は看過できません。

 さて、主要20カ国首脳会議(G20)がアルゼンチンのブエノスアイレスで11月30日から開催されます。トランプ大統領とムハンマド皇太子が並んで会見をする場面があるかもしれません。トランプ大統領は、国際的な舞台であるG20をムハンマド皇太子のカショギ殺害事件の関与を否定する「ショー化」の場として利用するでしょう。

  
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