今回のテーマは「2020年米大統領選挙で選挙戦略はどう変わるのか」です。ドナルド・トランプ米大統領は、中間選挙において下院で野党民主党に多数派を奪われたのにも関わらず「大成功」「素晴らしい日」と述べました。トランプ大統領は本当に、大成功と信じているのでしょうか。本稿では、まずトランプ発言の真意を探り、次に同大統領の懸念材料を明確化し、その対策について述べます。そのうえで、20年米大統領選挙における選挙戦略の変化を予測してみます。
想定内の選挙結果
投票日の11月6日までのラスト6日間(10月31-11月5日)に、トランプ大統領が与党共和党候補の応援演説のために訪問した11カ所を分析すると、同大統領のある思惑が見えて取れます。
今回の中間選挙でトランプ大統領は、上院、知事、下院の順に優先順位をつけていました。訪問州の西部モンタナ州、中西部ミズーリ州、インディアナ州、オハイオ州、南部ウエストバージニア州及びフロリダ州はすべて上院選を戦っている共和党候補の応援演説でした。
下院で民主党が過半数をとり、弾劾発議に賛成しても、上院で同党が3分の2の議席を取られなければ、弾劾裁判を開くことができず、クビにはならないとう計算がトランプ大統領には働いたわけです。従って、同大統領が上院の共和党候補の応援に時間を割いた理由は、実は「弾劾対策」だったのです。
うえの6州の中で、フロリダ州では上院選に加えて、知事選も行われました。知事は大統領選挙の際、州内の献金者を集めて支持を訴えてくれるなど、大統領候補にとって極めて重要な役割を果たします。しかも、フロリダ州は大票田で、16年米大統領選挙でトランプ大統領が民主党から奪還した州です。ラスト6日間で、同大統領はフロリダ州を2回訪問しています。
トランプ大統領は、上院で議席数を伸ばし、多数派を守りました。「中間選挙で、現職大統領が上院で勝利を収めたのは過去105年の内、わずか5回だけだ」と自身のツイッターに投稿し、自画自賛しています。上院に加えて、知事選で狙いをつけたフロリダ州でも勝利しました。
一方下院に関しては、バラク・オバマ前大統領が10年中間選挙で63議席を失ったのに対して、米政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティックス」によれば、今回共和党は32議席減らしています。トランプ大統領は、オバマ前大統領と比較して、善戦をしたといいたいのでしょう。
結局、同大統領の視点に立てば、上院及びフロリダ州知事選で勝利し、下院は多数派を奪還されたわけですから、2勝1敗になるわけです。従って、「大成功」は確かに誇張した表現ですが、選挙結果はトランプ大統領の想定内だったといえます。
新たな懸念材料
そうはいっても、トランプ大統領に新たな懸念材料が生まれたのも事実です。
第1に、下院では各委員会の委員長が民主党議員に総入れ替えします。その結果、トランプ大統領に対するロシア疑惑、脱税疑惑、ハリケーンへの対応及び政権内の倫理問題などを激しく追及することは間違いありません。
第2に、トランプ大統領や共和党が望む法案は、下院で通過が困難になることが予想されます。そこで、議会承認を得ずに政策を実行できる「大統領令」を乱発する可能性が高くなります。ただ、乱発すれば、「それで民主主義なのか、専制主義ではないのか」といった批判の声が有権者から上がるでしょう。
第3に、女性、若者、ヒスパニック系が投票に行き、下院における民主党勝利に貢献しました。これは、トランプ大統領にとって2年後の大統領選挙における最大の脅威になる可能性があります。というのは、トランプ大統領の支持者集会に参加すると分かるのですが、オバマ前大統領のそれと比較し、圧倒的に白人の中高年が多く、若者層が少ないからです。
では、こららの新たな懸念材料に対して、トランプ大統領はどのような対策をとっているのでしょうか。