今回のテーマは「トランプの中間選挙戦略と日米関係」です。11月6日(現地時間)の中間選挙を控え、ドナルド・トランプ米大統領は共和党候補の応援演説のため全国遊説をしています。トランプ大統領は10月18日西部モンタナ州ミズ―ラ国際空港、翌19日アリゾナ州フェニックス・メサ・ゲートウェイ空港にあるそれぞれの格納庫で支援者集会を行いました。
格納庫で支持者集会を開くメリットは、集会終了後、即座に次の集会場所に飛び立つことができる点です。つまり、効率性が高いのです。
モンタナ州及びアリゾナ州の集会に参加しましたので、本稿では同大統領の中間選挙戦略を「重点州」「殺し文句と対立構図」「主要な争点」の3つの視点から分析し、そのうえで選挙結果が日米関係にどのような影響を与えるのかについて述べます。
トランプの最重点州はどこか?
トランプ大統領は、9月にニューヨークで開催された国連総会の前後で選挙戦略を変えています。国連総会前は、「3+2(スリー・プラス・ツゥー)」の選挙戦略をとっていました。まず、中西部ノースダコタ州、インディアナ州及び南部ウエスト・バージニア州の3州を重点州に置き、複数回訪問しました。次に、モンタナ州と中西部ミズーリ州の2州を加えて、選挙応援集会を開催しました。
国連総会が終了すると、他州で支持者集会を開きます。ところが、トランプ大統領はモンタナ州を7月と9月に続いて、10月も訪問したのです。4カ月間に3回訪れ、上院選を戦う共和党候補マット・ローゼンデール氏の応援演説を行いました。トランプ氏は、11月3日に同州で4回目の支援集会を開く予定です。
トランプ大統領がモンタナ州を最重点州に位置付けた理由は、少なくとも3つあります。第1に、同州ではローゼンデール氏と民主党の現職上院議員ジョン・テスラー氏が接戦を繰り広げているからです。
第2に、ノースダコタ州で共和党候補のケビン・クラマー氏が、民主党の現職上院議員ハイディ・ハイトケンプ氏を15ポイント以上も差をつけ、同州における共和党の勝利が確実になったからです。
第3に、トランプ大統領の個人的な恨みです。同大統領は米退役軍人省長官候補に大統領専属医のロニー・ジャクソン氏を指名したのですが、テスラー上院議員がその人事を葬ったからです。
殺し文句と対立構図
トランプ大統領のコミュニケーションにおける中間選挙戦略は、対立構図及び殺し文句を巧みに使う点で、16年米大統領選挙のそれと実に類似しています。
たとえば、トランプ大統領は最高裁判事に指名したブレット・カバノー氏の性的暴行疑惑に対する抗議者を利用しています。彼らは一部の州で暴動を起こしました。
そこで、トランプ大統領はモンタナ州並びにアリゾナ州での選挙支援集会で次のような殺し文句を使い、支援者から拍手喝采を浴びました。
「民主党は暴徒を生む。共和党は雇用を生む」
トランプ大統領は「暴徒対雇用」という対立構図を作り、民主党を法と秩序を乱す党であるとレッテル貼りをしています。
加えて、「社会主義対資本主義」という対立構図に訴えています。民主党内ではバーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)や同議員のプロテジェ(弟子)であるアレキサンドリア・オカシオ・コルテツ候補(ニューヨーク州第14選挙区)など「民主社会主義」が勢い増しています。
しかも、「ニューヨークに誕生した民主社会主義の女神を直撃取材」で紹介しましたが、米ギャラップ社の世論調査(2018年7月30日-8月5日実施)によれば、米国社会の若者(18-29歳)の51%が社会主義を支持しています。これに対して資本主義の支持は45%です。
このような状況を察知したトランプ大統領は、「民主党が勝てば米国はベネズエラになる」と断言し、冷戦を経験した社会主義を否定する中高年の岩盤支持層に警告を発しています。要するに、極右の支持を得て大統領の地位を獲得したトランプ氏は、その反動で振り子が極左に戻るのを強く警戒しているのです。