2022年9月25日(日)

復活のキーワード

2011年10月17日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

ジャーナリスト

千葉商科大学教授(4月から)。1987年日本経済新聞社に入社。フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務め、11年に独立。著書に『2022年、働き方はこうなる』(PHPビジネス新書)など。

 08年の英国政府の広報誌によれば、英国のクリエイティブ産業全体が生み出した国内総生産(GDP)は、英国全体のGDPの8%まで拡大した。さらに、産業の中で最も成長率の高い分野になったという。英国と言えば、ロンドンのシティに代表される金融業を連想するが、リーマンショック前の段階で英国金融業のGDPは全体の17%程度だったとされる。つまり、金融がピークの時ですら、その半分近くに相当する額を“新しいモノづくり”が生み出すところまで育ったわけだ。

 国家としての明確なビジョンがあったから、クリエイティブ産業が英国の主要産業の一つにまで成長したのだ。

50年を越す歴史を持つGマーク

 今、日本では猛烈に円高が進んでいる。政府の為替介入にもかかわらず、1ドル=80円の壁を突破、75円台を付けた後も円高が収束する気配は乏しい。かつての1ドル=360円の固定相場制時代と比べれば、円は5倍の強さになったわけで、輸出産業から悲鳴にも似た声が上がるのも無理はない。

 だが一方で、40年にわたって続いてきた円高を、日本の輸出企業が技術革新やコスト圧縮で乗り越え続けて来たのも、また事実である。繊維製品や日用雑貨のような価格競争が避けられない製品は海外工場にシフトし、日本国内には、より高付加価値の先端技術製品を残すというように、構造転換を繰り返してきたのだ。今回の円高も最終的には同じような企業努力で克服していくほかないというのが現実だろう。

 世界的なヒット商品も生み出す力があれば、円高の中でも企業は収益性を維持することができる。技術革新で絶対的な競争力を持つ新製品があれば、価格競争に巻き込まれないからだ。最近ではアップルなど米国企業にすっかりお株を奪われている。iPadなどアップル製品は日本での価格競争とは無縁で、ドル安だからといっても安易な価格引き下げはしない。つまり、その分、儲けが増えているのだ。

 ではどうするか。付加価値の高い製品や産業へとシフトしていくほかない。まさに90年代の英国の製造業と同じ状況に直面しているのだ。実は、日本独自の文化や風土に根ざしたデザインや材質などが、「クール・ジャパン」として世界に認められている。また、漫画やアニメも世界を席巻している。こうした世界が「クール」と受け止める新しい日本製品を創り出す拠点を整備し、産業として育てれば、まだまだ日本は捨てたものではない。

 8月末の3日間、東京で恒例の「グッドデザイン・エキスポ」が開かれた。グッドデザイン(Gマーク)への応募・受賞商品など2000点あまりが一堂に並んだ。1957年に創設されたこの賞は、日本のモノづくりを後押しするために経済産業省が長年運営してきた。今では世界でも最も古いデザイン賞の一つだという。

 そのグッドデザイン賞が今、模索を始めている。従来の「モノ」のデザインだけでなく、コンピューターのソフトウエアやビジネスモデルなども「デザイン」として対象に組み込み始めた。昨年は人気アイドルグループAKB48が「エンターテインメント・プロジェクト・デザイン」として大賞に次ぐ金賞に選ばれ、大きな話題になった。

 日本のモノづくりの“お墨付き”であるGマークの変質は、日本の産業構造の変化を示しているとも言える。

 円高で来日したがる外国人アーチストが増えているという。円建てで支払われるギャラが、外貨に直せば“急騰”している効果らしい。強い円で外国から「才能」を集めるチャンスなのだ。それを新しい形の日本のモノづくりに生かせば、日本復活は容易い。

◆WEDGE2011年10月号より

 



 


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