カダフィ大佐を拘束し裁判にかければ、残党による奪回の動きや散発的なテロ事件もあり得る。そこで国民評議会は、むしろカダフィ大佐が国外に逃亡してくれた方が国づくりや復興に専念できて良いと考える。また、フランス政府やNATOにしてもカダフィ大佐や一族の裁判の過程で、既に明らかになりつつあるカダフィ政権と欧米諜報機関とのアル・カイダ情報を巡る協力関係が、さらに公にされる危険は避けたいと考えている向きもあるに違いない。
しかし、ことはそう簡単ではない。実は国民評議会といっても様々な考えを持つ人々の集合体で、カダフィ大佐に国外逃亡して欲しいと願っている者ばかりでない。カダフィ軍との戦いで多くの仲間を失った者、カダフィ政権下で家族や親族を逮捕・殺害された者など、カダフィ大佐と一族を法廷で裁きたいと思っている人々もいるのだ。
カダフィが握るアル・カイダ情報を欲しがる欧米
それならば、いっそ拘束の過程でカダフィ大佐や一族を、抵抗されたため止むを得ない措置であったとして殺害し、口封じをすることも可能なはずである。しかし、既にNATOによるリビアへの軍事介入に反発する声がアフリカ諸国や一部中東諸国からも聞こえるうえに、米国によるビン・ラディン容疑者殺害への反発もイスラム世界に残る状況では好ましい選択ではないのだろう。
かなりうがった見方と言われるかもしれないが、カダフィ大佐が依然アフリカ諸国におけるアル・カイダに関する情報を持っているとすれば、欧米諸国は亡命先で密かに聴取したいと考えているかもしれない。はたまた、国民評議会や今後内政・外交・経済・石油の各面で台頭してくるリビア人の素性などを熟知しているカダフィ大佐から、これらを聞きだし、リビアにおける自国の権益の最大化に活用したいと考えている可能性もある。
こうして考えれば、国内には何としてもカダフィ大佐を拘束したい人たちと、やむを得ず国外逃亡されてしまった方が好都合と見なす人たちがいても不思議ではない。これからのリビアの安定と復興を重視する立場に立った場合、奪還やテロを防止するための警護の必要性や、裁判で欧米、或いは暫定政府の要人にとって不都合な真実が明らかにされる可能性を考えれば、カダフィ大佐が国外に逃亡してくれたほうがリビアにとって好ましいとみれるのかもしれない。
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