2022年10月6日(木)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年2月24日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

日本人の安全を誰が守るのか?

 そんな米国はこれまで世界規模の対テロリスト戦争に巻き込まれてきたが、ついにトランプ米大統領は決断した。昨年末の米軍シリア撤退決定をはじめ、中東やアフガニスタンから米軍を次々と引上げようとしている。(参照:米軍のシリア撤退でいちばん困るのは誰か?

 ビジネスマン出身のトランプ氏は経営学に精通している。「選択と集中」の原理に則して、米国の主たる敵はテロリストではなく、中国であることを明確にし、軍事力を含めて資源をインド太平洋地域に集中投下しようとしているわけだ。いうまでもなく、南シナ海問題は1つのメインテーマになる。

 講演会の終わりに行われた質疑応答の部分では、「シーレーン、ひいては日本の国益、日本国民の安全を日本政府がどう守ってくれるのか」といった趣旨の質問が複数提起された。これは多くの日本人の関心所在である。しかし残念ながら、これらの質問はいずれも一防衛駐在官が答えられる質問ではない。結局のところ、日本の政治は果たして日本の国益や日本国民の安全を実質的に守ってくれているのかという本質的な問題(疑問)に突き当たる。

 自衛隊の法的地位すらあやふやな状況である。9条改正以前の問題で、日本国憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」の文言には、論理的にも多くの疑問がつきまとう。

「平和を愛する諸国民」とは誰のことか? その諸国民を代表する国家は本当に存在しているのか? 「公正と信義」と「利益」はどっちが優先か? 「信頼して」も裏切られたらどうするか? ひいては自国民の「安全と生存」を他者の意思に委ねていいのか?

 公正と信義を信頼してすべての問題が解決できるのなら、法律は存在する意義を失う。法律そのものは性悪説の産物とまでいかなくとも、性悪説を1つの仮説として、公正と信義が実現できない場合の救済措置を具現化するものである。法律の立法前提から他者の悪意を排除し、あるいは他者の善意を前提とするのなら、法律は法律でなくなり、宗教のバイブルと化する。

 法律は理想主義の善や美を否定するものではない。理想主義の善や美を実現するには、現実主義の悪や醜が欠かせない。「必要悪」や「必要醜」に裏付けられる「真」であり、その「真」があっての「善」と「美」である。これは「真・善・美」の相互関係ではないだろうか。

 憲法のこのくだりの問題は、もはや左右の問題ではない。生きるか死ぬかの問題である。しかし、この問題をいまだに実質的な議論に付することすらできていない。平和ボケの一線を超えていると言わざるを得ない。改憲を主たるアジェンダとする安倍政権をみても、最近動きが鈍くなってきている。懸念せずにいられない。

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