この不合理はテレビ放送だけに限らない。球団が商品化とスポンサーシップを個別に管理すると、それらの権利は全国市場で成長・発展しない。全国市場で商品グッズを販売したいメーカーも、同じくスポンサーシップを展開したい大手企業も、巨人や阪神の人気が高いといってもファンの比率は20~30%が上限だから、契約することを躊躇する。巨人や阪神と契約した場合、70~80%のファンからソッポを向かれる可能性が高いからだ。したがって、NPBでは、全国市場の商品化とスポンサーシップが球団の収入に貢献しない構造になってしまった。結局、巨人中心のテレビ放送が、巨人に依存するセ・リーグと赤字体質のパ・リーグを生み出し、同時に全国市場の開拓がお座なりになった。
収入増をもたらすプレーオフの長期化
米国では、62年、アメリカンフットボールのナショナルフットボールリーグ(NFL)が、コミッショナーの指導の下でテレビ局と地上波独占契約を締結した。コミッショナーによる独占契約は、後にメジャーリーグベースボール(MLB)など他のプロリーグでも採用された。
MLBの放送権の管理はNPBのそれとはまったく異なる。MLBは30球団で構成され、各球団は年間162試合戦うので、全ての試合を全国放送にすることはできない。全国に放送する試合をコミッショナーが選択し、残りは各球団の管理に戻される。各球団に地方市場での放送が許されるのだ。
このシステムでは、シーズン開幕から8月頃までコミッショナーの出番はない。なぜなら、フランチャイズ制の下では、ファンは地元のチームを熱心に応援するので、全国向けに放送をしても対戦する2チームの地元ファン以外は見てくれないからだ。全国市場に向かってテレビ放送が動き出すのは、優勝争いから脱落するチームが出始める8月頃からになる。優勝争いから落ちて行くチームを応援するファンの関心をプレーオフとワールドシリーズに惹きつけるために、地上波の全国放送の回数を徐々に増やすことになる。
商品化とスポンサーシップの収入拡大はテレビが牽引するので、MLBではコミッショナーがテレビに加え、商品化・スポンサーシップも一括管理することになった。これによって、全国市場のビジネス活性化のために、テレビ局、商品化のライセンシー、スポンサーなどのステークホルダーの協力を得て、全国規模でのプロモーションを展開できる準備も整う。8月頃からワールドシリーズまでが、ライセンシーの書き入れ時期になり、スポンサーはその間に大々的なセールスキャンペーンを行うのが慣例化する。その中心になるのが、シーズン終盤の優勝争い、プレーオフ、ワールドシリーズ終了までの連続した地上波による全国放送である。だから、戦力が拮抗して試合数が多くなり、そのためプレーオフの期間が長くなればなるほど収入増加に寄与する。参考までにNPBと米国4大プロリーグのプレーオフの組合せを別記する。
テレビ活用の上手なリーグと球団が潤い、テレビ活用に乗り遅れた所は売上が伸びない。現に、テレビ放送がMLBとNPBの経営の仕組みを決定的に違うものにし、今現在、大きな経済格差を生む要因となっている。
Forbes「The Business of Baseball 2011」によれば、MLB30球団の収入合計は61億3700万ドル。日本円に換算すると、約5000億円。一方のNPBは推定だが、約1200億円。球団当たりの平均収入が、MLBは約170億円、NPBが約100億円。この差が選手年俸の差となって表れ、日本人選手のMLB入りを促している。