駅弁は百数十年前から食品の安全に大変気を配っている。「かつおたたき弁当」は、売店でカツオのたたきを駅弁本体とは別に冷蔵してストックしておき、購入時に保冷剤と共に詰めることで、その販売が実現したものである。そんなことをしてまで生ものの駅弁を売ることはなかろう、という感想が、おそらく業界の常識であろう。こんなことにチャレンジしてしまう気風が、高知なのである。
多くの種類でにぎわう高知駅の駅弁
四国の鉄道を取り巻く環境は厳しい。3本の構造線が東西を横切る複雑な四国の地形を、大正や昭和の初期にようやく克服した鉄道であるが、勾配や曲線のため速度が上がらない。一方で、高速道路は整備が平成までずれ込んだが、戦後半世紀で向上した技術と富によりトンネルと橋梁で地形を克服したため、四国の高速バスは特急列車より安いうえに速い。現在の四国の特急列車では、2両編成でバス1台分程度の乗客を運ぶということが当たり前に見られてしまう。
鉄道が厳しければ、駅弁も厳しくないはずがない。長距離列車がないため四国の駅弁販売駅は以前から少ない。高知県内の駅弁販売駅はもともと、この高知駅と、1988(昭和63)年から土佐くろしお鉄道となった中村駅の2駅のみである。高知駅では2002(平成14)年1月に従前の駅弁業者が店を畳み、市中の弁当屋が後を引き継いだ経緯がある。
しかし高知駅の駅弁には、悲壮感がまるでない。2010(平成22)年10月からJR四国が始めたキャンペーン「四国の駅弁ランキング」に伴い、高知駅のコンビニで売られていた鶏飯や鯖寿司なども駅弁の土俵に上がった。高架化に併せて街の玄関口としての駅前整備が見えてきた新しい高知駅は、駅弁が賑やかに旅客を迎える駅にもなってくれたのである。高知はこれだから、面白いと思う。
福岡健一さんが運営するウェブサイト「駅弁資料館」はこちら
⇒ http://eki-ben.web.infoseek.co.jp/
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