2024年12月23日(月)

日本を味わう!駅弁風土記

2011年11月22日

明治維新の前から太平洋のかなたに海外を見ていた土佐・高知。
魚まるごと一本の姿寿司やツイッター生まれの駅弁など、
誰にも媚びず遠慮のない駅弁が毅然と売られる高知の駅で、
駅弁には御法度とされる生ものを詰めて地元を体現した個性派駅弁。

 徳島県は京阪神を向き、南海電鉄との連絡航路や国内初の定期航空旅客便で本州と結ばれ、淡路島を介して道路橋で繋がった。香川県は岡山県を向き、かつては国鉄の宇高連絡船など官民の航路で結ばれ、世界最長の鉄道道路併用橋で繋がった。愛媛県は広島県を向き、高速艇から渡し船まで各種の船舶で結ばれ、しまなみ海道で繋がった。

 そうした中、高知県は名実ともに太平洋を向く。幕末に坂本龍馬を、維新後に岩崎弥太郎を、それぞれ輩出していなければ、今の日本はどうなっていただろうか。一方で、陸路はもちろん海空の航路でも洋の向こうと繋がっていないのが現状であるが、ここにはいつまでも維新という言葉が似合う。

 駅弁に関しても、高知駅には維新の風が吹く。最近では、2010(平成22)年8月に全国初、ということはおそらく世界初となる「ツイッター」生まれの駅弁「日曜市のオバア弁当」「貝飯」が登場し、こともあろうにプラットホーム上での立ち売りという21世紀にあるまじき衝撃的なデビューを果たした。また、尾頭付きのカマスやサバの胴体に、見栄えがグロテスクになろうが一人前の分量を超えようがお構いなしに、胡麻を混ぜた酢飯を十二分に詰めた「カマスの姿寿司」「鯖の姿寿し」(いずれも通常は要予約)は、まるで土佐名物の皿鉢料理が備えるような豪快さで駅弁の域をはみ出す怪作である。

鰹のたたきがどっさり……

 今回取り上げる「かつおたたき弁当」も、他の全国数多の駅弁販売駅では駅弁として商品化されそうにない奇作である。まあ、カツオのたたきは土佐高知の名物であり郷土料理であるから、高知駅らしい駅弁である。ボール紙のパッケージには、中身にちなんで海やカツオなどのイラストが描かれる。

かつおたたき弁当 安藤商店 1,050円

 中身は日の丸御飯、カツオのたたき、その他おかずや付合せである。メインディッシュのカツオのたたきは、太めの冊が4切は入る。表面をあぶられてスライスされたカツオは、刺身の味と皮の香りが口の中で混ざり消えていく。ポン酢が2本と、ネギやニンニクやミョウガなどたっぷりの薬味も添えられるから、これで味に変化を付けてもよい。白御飯は分量があるので、組み合わせれば良いカツオ丼になる。煮物や漬物も添えられるから、弁当としても申し分ない。

 つまり、市中で食べられる土佐名物を、駅弁として列車の中でも食べられるようにしたものである。しかし考えてみよう。カツオのたたきは、生ものである。表面をあぶったり、タレに漬けたりしても、刺身の魚である。一方で駅弁は通常、作り置きが販売され、時間を置いて食べられる弁当である。生ものを作り置いたらどうなるか、旅行者は気が付かなくても、業界人に気付かぬ者などいないはず。


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