2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年11月4日

需給が逼迫すれば日本人も中国人も同じ

 ただ、こうした中国の一面に接した多くの日本人が「中国人ってやっぱり……」と、個性の問題としてこれを処理してしまうことにも違和感を覚える。というのも人のモラルは多かれ少なかれ環境、なかでも人間が日常生活を平穏に送る上での心の余裕や安全が保たれる程度の充足感があるかないかに大きく左右されるからだ。もっと分かりやすく言えば、日本人が列に並ぶのは、並んでいれば多少遅れても必ず手に入るという信頼関係が自然に成立しているからで、この信頼関係が崩れるような需給の逼迫した環境下で同じ行動がとれるかと言えば、そうではないからだ。

 例えば中国で暮らす日本人の留学生も、日本で教育を受けて日本の道徳観を持っていても旅先で横入りをしなければどうしても鉄道の切符が手に入らなければ横入りもするしかないのである。

 こうした需給の逼迫は一見、安定している日本社会でも瞬間的に人々を襲うことはある。例えば突然ダイヤが乱れて大混乱した駅などがそうだ。我先にと駆け出す群衆の動きに、秩序が一気に乱れるのではといった危機感を覚えた人も少なくないはずだ。つまり、足りていれば保たれる「モラル」も、需給のバランスが崩れれば簡単に失われてしまうといった経験は、実は日本のように安定した社会にもあるのだ。

「生存競争」に必死の中国人

 その意味で中国は、生まれながらにして供給が少なく、常に需要を下回っているような社会、つまり日本とは違い、余裕度や安全度がほとんどなく、多くの人々が「生きていくのに必死」な社会のなかで〝生存〟しているのが中国人なのだ。

 自然、中国人の多くが競争社会にもまれているため、その結果、悦悦ちゃん事件のように、日本人や欧米人から見れば信じがたいモラルハザードを起こしてしまうことも考えられないことではないのだ。しかも、こうした行為が国際社会から非難を浴び、逆に反中感情に火をつけることを想像できない人が一部にはいることも〝中国の現実〟でもある。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信中国総局記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)
◆更新 : 毎週月曜、水曜

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