Wedge創刊30周年記念インタビュー・新時代に挑む30人

2019年5月16日

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児玉 博 (こだま・ひろし)

ジャーナリスト

1959年大分県生まれ。早稲田大学卒業。フリーランスジャーナリストとして、大手総合誌、ビジネス誌で活躍。著書に『日本株式会社の顧問弁護士 村瀬二郎の「二つの祖国」(文春新書)、近著に『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』(小学館)など。

 同社の有力な支援者でもある世界銀行、アジア開発銀行の総裁らが、高崎の説明を聞きながら「信じられない」という言葉を連発したように、そのサービスのきめ細やかさは日本人ならではだ。「当社のシステムでは労働者に給料が支払われる段階で、社会保険料や税金などが天引きされる。個人ローンなどを抱えている場合は、あらかじめ月々の支払い金額が差し引かれる。特定の目的、例えば今回のイラクのように、食糧、水、薬、衣類といった生活必需品の購入に限定することもできる。払い込まれた給料が浪費されることはない」と高崎は語る。

 今や給与の前払いシステムは世界中に山ほど存在する。が、ほとんどは現金による支払いで、そのサービスの柔軟さ、細やかさでドレミングには遠く及ばない。さらに、世界を驚かせたのは、ドレミングが労働者から一切手数料を取らない点だった。手数料はドレミングのシステムを導入している企業からだけだった。

 「テッククランチ」を見た英国政府がわれ先にと手を挙げ、ドレミングに接触する。当時、同国内のシリア難民対策として同社のシステムを導入したかったからだ。冒頭のイラクの事情と似ている。以来、英国政府は同社と手を組み、かつて宗主国として支配していた国々にドレミングのシステムを導入させようとしている。いわば〝ドレミング経済圏〟を形成しようとしているのだ。そのために、世界に点在する英国大使館すべてをフリーパスでドレミングに開放している。

 同社のもたらすインパクトを理解しているのは英国ばかりではない。〝ポスト石油〟を模索するサウジアラビアは、個人の与信情報という枯渇しない資源に価値を見いだした。あの皇太子、ムハンマド・ビン・サルマンが陣頭指揮を取り、同社のシステムを世界に広めようと支援する。北アフリカのモロッコでは、中央銀行総裁が「法律を変えてでもこれを導入したい」とドレミングを絶賛している。

 ベトナムでは昨年6月から地元銀行が運営する電子マネー決済にドレミングのサービスが追加され、約1万人の労働者の給与支払いに導入されている。インドとタイでは両国を代表する財閥とそれぞれ共同事業を計画している。今年立ち上がったケニアの現地法人では、アフリカ最大と言われるスラム街の復興にドレミングのシステムを採用した。

 創業者であり、開発者でもある高崎の経歴は異色だ。熊本の生まれ、地元の工業高校を卒業後、板前、ハンバーガーチェーンの店長といった職業を転々とする。店長時代の1995年には阪神・淡路大震災で被災。店長を務めていた三つの店は倒壊する。この時、高崎は自らの生かされている意味を深く知る。店長時代、働くアルバイトのために作った人事勤怠システムがドレミングの源流となる。

 高崎は常に考えていた。働く者が不利益にならないようなシステムはできないか? 搾取されないシステムはできないか? こうしたやむにやまれぬ思いが、当時、精算・入金機能「Suica」を開発したJR東日本の最高幹部に手紙を書かせる。高崎が開発したシステムを同カードに乗せてほしかったからだ。それは叶わなかったものの、1000万円の投資を受けることができた。こうした紆余曲折を経て辿り着いたのが、先の「テッククランチ」だった。

 高崎は一切英語を話せない。「学歴がなく英語も話せない僕が、世界中を飛び回り人を動かせるんだから、誰でもやればできる」。こう高崎は笑ってみせる。理念と理想と実行力で現実を突き破ってみせた高崎。4月後半、英国とともにイラクに旅立つ。

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