“令和”の時代にもつなぎたい日本の伝統
いかがだろうか。一言で木の調理器具と言っても、用途に合わせて、厚みや形状、素材が選ばれていて、機能的かつ温もりを得られる、とても豊かな道具たちではないだろうか。しかしながら、木の調理器具たちが、マイナーになっている理由を職人さんに聞くと、みなさん共通しておっしゃるのが、戦後に安価な金属製の調理器具が広がり、その波に押され今では受け継ぐ人が数人になっているということ。
戦後70年以上経つ戦争のない平和な今、安いということだけを追い求める生活ではなく、「豊かな暮らしとは?」ということを、もう一度自分に、社会に問うてみるべき時代がやってきた気がしている。
今回は、令和という新時代が到来してから第1回目の連載。最後に蛇足だが、ちょっとここで、改めて本連載のタイトルについて触れてみたいと思う。
「矢島里佳の暮らしを豊かにする道具」、“生活”ではなくあえて“暮らし”という言葉をタイトルに選んだ。20世紀、戦後の日本は物がなく、まず生活することに必死だった。そうした先人の努力のおかげで、21世紀の日本は必要なものはなんでも揃う時代に突入した。特に昭和の終わりから平成にかけてが顕著ではないだろうか。そんな物に溢れた豊かな時代だからこそ、“生活”という言葉から、“暮らし”という言葉へ豊かさの質感を移行する時期ではないかと感じていたからだ。
平成はなんとなく、このままではダメだ、システム、仕組みを変えなければ日本社会は持たないと言われつつ、なかなか脱皮しきれない30年だったように感じる。昭和63年、まさに昭和の終わりに生まれ、平成に育ち、そして令和は日本を担う世代としての責任を全うしたいと感じながら、令和元年を迎えた。新たな風を吹かせていく時代であってほしいし、そうするためにも、自分には何ができるのだろうか。日本の伝統を次世代につなぐことが、これからの時代を生き抜く上で大切な、真の豊かさの実現につながると信じて、伝統とともに暮らし始めたことで気がついた豊かさを、これからも徒然なるままにお伝えしていきたい。
1988年東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時である2011年3月、株式会社和えるを創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す。テレビ東京「ガイアの夜明け」にて特集される。日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を展開中。
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