「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いで、各地の伝統工芸の職人さんたちと一緒にオリジナル商品を生み出す矢島里佳さんが、日々の暮らしを豊かにする道具を紹介しつつ、忘れられがちな日本文化の魅力を発信していきます。
子どもの頃にはあんなに絵を描いたり、物を作ったりしていたのに、大人になるとぱったりと手を動かさなくなってしまった。しかしながら、職人さんが物を作っているところを見ていると、なんだか手を動かしたくなってくる。何か手を動かして物をつくりたいという欲求は、人間が本能的に持っているものなのかもしれない。子どもの頃は、その本能に素直に生きていたのかもしれない。
「職人さんって何がすごいのか?」
これを言葉だけで説明するのはなかなか難しい。職人さんは、さも当たり前のように、ものづくりをされるので、何が難しいのか、何が熟練の技術なのか、見ているだけではわかりにくい。私も19歳、日本の伝統産業に出逢ったばかりの頃は、はじめてみる原材料や、道具、ものづくりの光景に、ただただ「すごーい!」としか言えなかった。でも、すごーい!だけでは、面白みに欠けるので、もう少しどうすごいのかを知りたくなったのだ。
そんな私が始めたのが、職人さんのお仕事体験をするということ。以前紹介した、奈良県生駒市での茶筅づくりもそうだが、作ってはじめてわかる職人さんのすごさがある。ものづくりの難しさと面白さを体感することで、ものの価値を理解できる一歩を踏み出せる気がしている。
「渋草焼」の絵付け体験
岐阜の高山に渋草焼という焼き物がある。渋草焼自体、藩の政策として始まった焼き物。(詳しくはこちらの記事をご覧いただきたい)
私が今回仕事で伺った際に、絵付け体験をさせていただいた場所は、高山市の指定有形民俗文化財の中なのだ。
都市でも絵付け体験はできるが、やはり場も含めて体感するのは一味違う。実際に職人さんが仕事をされている工房の中での絵付け体験は、とても贅沢であった。
渋草焼を作るのに使っていた陶石も庭先に置いてあった。まだ陶石は山に残っているものの、今では、地元での採掘をする会社がなくなり、残念ながら地元材は手に入らなくなってしまったそうだ。そこで、限りなく近い性質の原材料を探し求め、熊本の天草陶石を取り寄せて使っているとのことであった。
今回は、正方形の角丸のお皿に絵付けをすることになり、私は辰年なので大好きな龍を描くことにした。
とはいえ、どう描いていいものやらさっぱりわからず、「何かお手本が欲しいなぁ……」とつぶやいたところ、こんなにも立派なお手本をお貸しいただけた。
もはやこのお手本自体が素敵すぎて、持って帰りたい勢いだったのだが、そこは我慢。和綴じの本を見るだけで、ウキウキするのだが、この表紙もカッコよくて、ますますウキウキした。