Washington Files

2019年7月1日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 第三点目に、米国世論動向がある。

 先月21日、ロイター通信が公表した米国世論調査によると、対イラン先制攻撃を支持すると回答した人は12%だったのに対し、「反対」は60%と、「反対」が「賛成」の5倍にも上った。また「トランプ大統領の対イラン政策を支持しない」と答えた人は半数に近い49%、「絶対反対」だけでも31%にも達した。このほか、トランプ政権が離脱した「イラン核合意」についても、61%という多数が「核合意を支持する」と答えていることが明らかになった。

 これは、2003年、ブッシュ政権が対イラク戦争を開始した当初、90%近い支持率だったのにくらべ、トランプ政権にとって明らかに不都合な数字であることに違いない。もしこうした状況下で軍事力行使の挙に出た場合、短期決戦で勝利しない限り、米国民からソッポを向かれることは明らかだ。しかし、現実には対イラク戦争の何倍もの時間と戦費と犠牲を覚悟せざるを得ないと見られている。

中西部の保守層も反対

 さらに、今回の“イラン危機”で注目すべきは、保守派のオピニオン・リーダーの間でさえ対イラン戦争反対の声が挙がっていることだ。

 トランプ大統領が絶対的信頼を寄せる右寄りの代表的テレビ局で知られる「フォックス・ニュース」の著名アンカーマン、タッカー・カールソン氏は、米軍が限定攻撃を開始しようとした直前の先週、大統領と個人的に電話で会話し、その際「大統領の支持基盤である中西部の保守層は、莫大な金のかかる外国との戦争ごとにかかわりたくないと思っている」と説明したといわれる。

 そして実際、大統領は今回、米軍がイランの軍事拠点への限定攻撃に乗り出そうとした「10分前」に中止に踏み切ったことは報じられた通りだ。

 第四点目として、中国、ロシアの反応だ。

 中国にとってイランは最大の石油供給国であり、歴史的にも永年にわたり友好関係を維持している。中国はかつてイラン―イラク戦争の際も、イラン側を支援、武器・弾薬を供給した経緯がある。今回の“イラン危機”に際しても、中国外務省スポークスマンは一貫してアメリカの対イラン経済制裁を批判してきた。

 ロシアも、最近の米軍無人機撃墜について「イラン領空侵犯」を指摘、イラン側の主張に歩み寄る姿勢を見せているほか、長期的に見て、イランを中東地域におけるアメリカの覇権拡大を食い止めるための防塁としてその存在を重視している。

 しかも、中露両国とも「イラン核合意」の当事国であるだけに、一方的に離脱したアメリカが対イラン経済制裁の再開に踏み切ったことを快く思っておらず、もし、米軍による対イラン軍事攻撃が開始された場合、アメリカとの関係がこれまで以上に険悪化することは確実だ。

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