Washington Files

2019年7月1日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

トランプ自身が戦争を望んでいない

 第五点目として、大統領自身が、イランに対する威勢のいいレトリックを繰り返してきたにもかかわらず、実際は戦争を望んでいないとみられる点だ。

 トランプ氏は大統領選立候補当時から選挙公約の一環として、中東からアメリカは足を洗うべきだと主張してきた。それだけに今、戦争に踏み切り、戦況が泥沼化した場合、多くのトランプ支持層からも批判にさらされることになる。

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、大統領は最近、ポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官ら対イラン強硬派の意見だけではなく、外部の軍事専門家たちとも連絡をとり、対イラン対応策について情報をインプットしており、相談を受けた一人、ジャック・キーン前陸軍参謀次長は「進言内容は語れない」とした上で「私は大統領がイランと戦争しないと確信している。もし、イランが今後、さらに挑発的行為に出たとしても、大統領の反応は抑制されたものとなるだろう」とコメントしている。

 また、同紙によると、大統領は先月末、ホワイトハウス地下の秘密作戦室シチュエーション・ルームでイラン問題協議を行った際、出席したシャナハン国防長官代行(当時)、ダンフォード統合参謀本部議長らが対イラン戦争に踏み切る場合の(必要投入兵力規模、必要戦費などを含む)軍事オプションを提示したのを受け「自分はイランとの交戦も、イラン政権転覆も望んでいない」ときっぱり答えたという。

 ただ、このような状況にあるにもかかわらず、今後、対イラン戦争の可能性が皆無とは言い難い。それは次のようなケースだ。

 一つは、イラン側が偶発的あるいは計画的に中東展開の米軍機や艦船に人的被害が及ぶ事態を引き起こした場合だ。そうなった場合、米議会、国民のみならず、西側同盟諸国の空気も一変し、対イラン報復攻撃を支持せざるを得なくなる。

 二つ目に、アメリカによる経済制裁でイランがさらに追い詰められ、対抗措置として苦し紛れに日本など各国の石油タンカーの往来するホルムズ海峡を機雷封鎖した場合、それはアメリカにとっては対イラン攻撃のかっこうの口実となる。

 そしてもう一点は、来年11月大統領選挙に向けて、再選をめざす大統領が苦戦を強いられる展開となった場合だ。大統領は危険な賭けを覚悟の上で、何らかの理由をきっかけに投票日の直前に戦争に踏み切る。そして、太平洋戦争のきっかけとなった「パールハーバー奇襲」の例を持ち出すまでもなく、それまで戦争には慎重だった国民も大統領の下に結束、結果的に大統領支持率を押し上げた上で、再選を果たす、というシナリオだ。

 こうしたことから、イラン情勢は当分、混迷の度を深めることは避けられない。その中で、戦争回避に向けて重要なカギとなるのは、中国およびロシアの今後の出方だろう。なぜなら、中露両国とも当事国であるアメリカ、イラン双方に対し大きな影響力を行使できる立場にあるからであり、さらに両国ともアメリカの対イラン戦争をけっして望んでいないからにほかならない。

  
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