米国の現代の発明家、と言えば誰もがイーロン・マスク氏の名前を挙げるだろう。しかしモビリティを始めとする社会貢献の意味から忘れてはならないのがディーン・ケーマン氏の存在だ。ケーマン氏、あるいはDEKAという企業名を聞いてもピンとこない人も多いかもしれないが、「セグウェイを生み出した人物」と言えば分かりやすい。
ケーマン氏は1982年にDEKA社を設立、「世界中の人々の生活の質の向上に役立てたい」と自律式の走行機器であるセグウェイを発明した。空港内の見回りや警察のパトロール、時には郵便配達などにも使われるセグウェイだが、もともとは「歩行困難者のアシスト」というアイデアが原点だった。
DEKA社はメディカルデバイスを始めとする様々な研究開発を行っており、人工臓器もその一つだ。また1989年からはFIRSTと呼ばれる学生を対象としたロボティックコンテストも開催、未来の人材作りにも貢献している。ケーマン氏によるとFIRSTに参加した児童の大学進学率、理系の研究職への就職率、女性の技術系大学への進学率などは大幅に向上している、という。
そのDEKA社ではiBOTと呼ばれる車椅子の開発も行っている。アイデアは「身体不自由であっても健常者と同様のモビリティを持ち、生活を楽しむ工夫を」ということで、電動車椅子だが4輪が自在に動き、階段を上り下りする、「立ち上がって」立っている人と同じ目線から見物などを行う、坂道でも乗っている人の水平が保たれる、など様々な工夫がされている。
また、4輪が絶妙なバランスを保つことにより、まるでオフロード走行車のようにどんな地表であってもスムーズに進むことができる。例えば砂浜、雪道であっても介助なしに自力で走行できるのだ。
この技術に目をつけたのが配送会社であるフェデラル・エクスプレス(フェデックス)。レーダーなどによる自動運転走行技術と組み合わせ、ラストマイルソリューション(配達の最後の部分、配送センターから個人の配送先までの間を指す)となるSameDay BotをDEKAと共に開発した。
この自動運転配達ロボットは今年夏からフェデックスの本拠地であるテネシー州メンフィスなど限定された市場でテスト導入が始まる。オートゾーン、ローズ、ピザハット、ターゲット、ウォルグリーン、ウォルマートなどの大型量販店がパートナーとなり、これらの企業から顧客へのデリバリーを行う。
現在フェデックスでは同日配達サービスを32の市場、1900都市で行っているが、SameDay Botの導入試験が成功すればこの試みをすべての市場で展開したい、という。パートナーの小売店は大きな都市であれば複数箇所に店舗があるが、こうした店舗と付近の住民のニーズを合わせ、注文が入ればBotが店舗に商品回収に向かい、注文者の自宅などに自動で配送する、というシステムだ。成功すれば人件費、時間などを大幅に節約することができる。