Washington Files

2019年8月12日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

欧州だけでなく、世界全体の安全保障が損なわれる

 一方のロシアも、INF条約失効でフリーハンドを得るだけでなく、米軍の新型中距離ミサイルのアジア配備を口実に、今後再び極東に新型INFを配備する可能性が高まって来たといえよう。

 ゴルバチョフ氏が今回「欧州だけでなく、世界全体の安全保障が損なわれる」と言及したのは、まさにこのことを意味したものだ。

 ロシアは、とくにわが国北方領土を含めた極東方面とは至近距離にある沖縄も含めた日本への米軍ミサイル配備に神経をとがらせている。

 リャプコフ外務次官が5日の記者会見で早々と「米国が日本に新型ミサイルを配備するならば、わが国も相応の措置を検討する」と論評したのもそのあらわれだ。

 プーチン大統領も同様に、米国が新型ミサイル配備に踏み切った場合「ロシアも新たなミサイル開発を迫られる」と警告したが、米国より先行することはないとして、米側の自制を呼びかけた。

 しかし、米国はこうしたロシア側のけん制にもかかわらず、今後、アジアにおける新型中距離ミサイル配備に踏み切ることは確実だ。

 その理由は、米軍にとって今日、アジアにおける最大の脅威となりつつあるのが、ロシアに代わる、中国人民解放軍の動向であり、中国のINFへの新たなる対応を迫られているからだ。INF条約締結当時のアジア太平洋における大国間の軍事バランスは、21世紀に入り大きく変化してきたことを意味している。

 東西冷戦時代とくに1970年代に入って、米ソ両国は主として欧州向けにINFを配備してきた。ソ連側の主力は移動式で射程5000キロながら命中精度の優れた3個の核弾頭を備えたSS20を、これに対し米側は射程1800キロのパーシングⅡのほか、陸上、空中、海上発射巡航ミサイルで対抗した。

 1980年代にはいると、ソ連はこの強力な破壊力を持つSS20を欧州向けのほか、中央アジアに90基、極東にも144基を配備、米国の同盟国である日韓両国のみならず、当時中距離核を保有していなかった中国にとっても大きな脅威となった。

 そしてまさにソ連のアジア向けINF配備こそが、その後中国による中距離核ミサイル新規開発に拍車をかける結果を招いた。

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