2024年11月22日(金)

スウェーデンで生きる 海外移住だより

2012年2月14日

 男女平等社会と言われるスウェーデンですが、それでも実際には男性優位の部分がまだ残っており、例えば、高所得の職に就いているのは圧倒的に男性です。同職業の中でも男女によって給料に差があることもあります。また、結局は子育て・家事に時間をより費やしているのは女性で、その3人に一人が両立を理由に非常勤で働いているのです。子育てが落ち着いても全ての女性が常勤に戻るわけではなく、45歳以上の女性の4人に一人はその後も非常勤のままです。それに加え、早期退職をする女性も少なくありません。特に、勤務者の約90%が女性である病院や老人施設などの介護福祉の現場では、体力の限界や健康上の都合で早期に定年する人が跡を絶ちません。(スウェーデン統計局/ダーゲンス・ニューヘテル)

 この結果、多くの女性が最低保障年金に頼ることになり、また経済面や自立面でも男性に劣ってしまうのです。

 スウェーデンならではの年金問題はこれだけではありません。年金政策は移民政策とも切っても切れない関係にあります。例えば、所得比例制度においては、移民がスウェーデン人と同等の年金額を受給することはなかなか難しいことです。スウェーデン滞在年数によっては、最低保障年金を満額で受け取ることすらできません。国からの経済支援に頼らざるをえない移民も多く、そういった移民を救うために国はさらに移民政策に力を入れます。

 そうすると、今度はスウェーデン人からの不満が高まります。それを象徴する例の一つが、2010年の選挙で国会初入りを果たした政党、Sverigedemokraterna(スウェーデン民主党:移民反対の極右派)の選挙宣伝でした。年金の受給に向かうスウェーデン人のお婆さんを押しのけて、ブルカ(イスラム世界で用いられる女性用ヴェール。スウェーデンにはイスラム系の移民が多い。)を着用した移民女性が大勢、生活保護金を受け取りに行く、というコマーシャル。これが党の支持率増加、国会入りにどれくらいの影響を与えたのかは定かではありませんが、年金政策と移民政策を絡めたそのメッセージは強く伝わってきます。(コマーシャルはこちらでご覧になれます。http://www.youtube.com/watch?v=XkRRdth8AHc

日本もスウェーデンも、高齢化に悩まされる

 今日本でも、社会保障と税の一体改革が話題となっています。少子高齢社会においても充実した社会保障を維持するためには財源となる消費税を増税せざるをえず、2015年10月までには最終的に10%に引き上げる、という政府の方針です。社会保障政策にも色々ありますが、その中でも特に気になる年金政策。少子化に歯止めがかからない状況で、年金問題が少しでも解決されるのなら、と個人的には納得していたところもありました。しかし、現実には今回の増税率に年金制度の改革に必要な財源は含まれておらず、抜本改革にはさらなる増税が必要である、とのこと。

2月7日のスウェーデン紙ダーゲンス・ニューヘテル(Dagens Nyheter)。見出しは「ラインフェルト、75歳までの現役生活を呼び掛ける」。

 年金は誰もがいずれ関わる重要な制度ですが、近年、日本ではいわゆる年金未納問題や主婦年金問題など次々と年金に関する問題が発覚し、不信感が募るばかりです。前出の「メルボルン・マーサーグローバル年金指数」でも最も評価が悪かったのが年金制度が持続可能かどうかを問う「持続性」。このまま保険料を納め続けても実際にそれ相当の年金が受け取れるのかという疑問は、保険加入者の方々が現在最も不安に感じている事柄でしょう。

 しかし、スウェーデンも、国民年金の大部分を現役世代が高齢者を養う賦課方式部分が占めているので、冒頭にもあるように、高齢化が進めば年金制度の持続性が揺らいできます。50年前には約11%だった65歳以上の人口も現在は約18%、さらに今後50年で約27%にもなると言われているのです。ラインフェルト首相の提案の裏には、国民が40歳、50歳を過ぎても転職しやすい世の中をつくりたい、という意図もあります。しかし、この発言は現在多方面で波紋を呼んでおり、今後の議論に注目が集まります。

ポストに届く「オレンジ封筒」

 スウェーデンでは、毎年1月から3月にかけてオレンジ色の封筒が年金機構から送られてきます。これには、被保険者の場合はそれまでの保険納付額、受給者の場合はその年の毎月の受給額、といった個人の年金情報がもろもろ記載された手紙が入っているのです。そろそろ私の手元にもその封筒が届く頃。退職年齢引き上げ案によっては残りあと何十年あるのか分かりませんが、まだまだ雀の涙ほどに過ぎない私の納付額、定年までに一体どれくらい増えてくれるでしょうか。


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