米中貿易摩擦に収束の兆しが見えない中、リスク回避のため、中国進出の台湾企業「台商」の里帰り投資がラッシュといえるほど活発化している。蔡英文総統は8月初め、台商による国内投資額5000億台湾元(約1兆7000億円)という年間目標を前倒しで達成したと発表した。この目標も、あまりに好調なため当初の2500億台湾元を上方修正していたが、あっさり達成した。
里帰り投資の台商の列には、名だたる大企業が目白押しで並んでいる。台湾経済省の7月末の発表によると、液晶パネル世界大手の友達光電(AUO)が他の大手企業4社とともに、里帰り投資を同省の「投資台湾事務所」に申請し、認められた。承認を受けると工業用地の斡旋、工業用水の優先的供給、低利の融資などさまざまな政府の支援が受けられる。
AUOは薄膜TFT・LCD(薄膜トランジスタ・液晶パネル)のシェア世界第4位の大手。407億台湾元(約1380億円)を投じ、桃園、台中両市の現有工場を増強。大型パネルや車載用液晶パネルなど高付加価値品を製造する。
AUOほかの4社のうち、通信機器製造大手の友勁科技(CAMEO)は、米国が主要輸出先であるため、5億5000万台湾元(約18億6000万円)を投じ台南市に工場を新設する。電子部品製造大手、長華電材傘下のコンタクトレンズ製造会社の望隼科技も米国と日本が主な市場で、台湾北西部にある苗栗県の工場を増強する。
台湾紙・自由時報(電子版)によると、台湾が誇る情報端末のOEM(相手先ブランドによる生産)大手5社のうち、ノートPC受託製造大手、仁宝電脳工業(コンパル)、英業達(インベンテック)のほか、和碩聯合科技(ペガトロン)、広達電脳(クァンタ)の4社が里帰り投資を決めた。鴻海(ホンハイ)精密工業は特に台湾工場の増強を表明していない。
台商がこぞって里帰りする理由の第一は、米国が中国製品への関税を引き上げたことで、第二は、台商の取引先から、リスク分散のため中国からの工場移転を求められたためだ。電子部品と素材メーカーの里帰りは、取引先の要望に基づくものが多いという。
一方で、里帰り投資の投資額が縮小し始めたとの指摘もあるが、経済省は一時的な現象とみている。用地の物色で足踏みしている企業があるほか、蔡英文政権のチャイナプラスワン奨励策「新南向政策」の支援を受け、東南アジア諸国連合(ASEAN)などへの進出を検討している企業があるためとの説明だ。現在、審査待ちの投資案件には投資額が100億台湾元(約340億円)を超える大型事業も多いとして、今後の投資の伸びに自信を深めている。
ただ、台湾の有力経済団体の1つである全国工業総会は今年の白書で、投資先としての台湾は「水、電力、労働力、用地、優秀な人材」の「5つの不足」問題がなお未解決だと指摘した。これらの難題を解決できないと、里帰り投資が一時的なブームで終わる恐れもある。
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