2024年11月22日(金)

Wedge創刊30周年記念インタビュー・新時代に挑む30人

2019年9月2日

 次世代通信規格『5G』を巡っても、中国が経済活動と安全保障とをリンクさせる以上、日本は安全保障を蔑ろにして経済の論理を優先することはできない。だからと言って、中国市場を完全に捨てて民主主義国家とだけしか貿易しないということも非現実的である。経済と安全保障の論理がねじれ、深く連動する中、日本は難しい外交の舵取りをしていかねばならない」

 国際情勢に不透明感が漂う中では、外交がより重要になるが、その一方で、これからの時代は外交が機能不全に陥ると細谷は予測する。

 「安全保障や経済がリンクし政策領域が横断的になったことで、各国とも外交が外務省から首相官邸レベルへと引き上げられ、結果、外交が政治化されやすくなった。他方、世界中で反エリート主義やポピュリズムが蔓延しており、政治化されやすくなった外交問題に国民の感情が色濃く反映されるようになり、国家間の合意が難しくなっている。ブレグジット、慰安婦問題などをみても、国際政治の構造的病理が大きく影響しているといえる」

 確かに日本も対ロシア外交では、「戦後日本外交の総決算」と銘打って官邸主導で北方領土問題の解決に乗り出している。では、外交が政治化されやすくなった時代に、外交のかじ取りで気を付けるべき点は何か。

 「歴史家ハロルド・ニコルソンは、職業外交官でない者が外交的成果を得ようと焦りやすくなる危険性を指摘し、その最も象徴的な例として英国が経験したミュンヘン会談の挫折を挙げている。外務省はドイツの意図を読み解き、宥和政策に強く反対していたが、大蔵省とイングランド銀行は財政状況を考慮すると戦争は困難である主張した。首相のチェンバレンは宥和政策を選んだが、結果、ヒトラーに騙された。ミュンヘン会談の教訓とは、単に独裁者に譲歩してはいけないというタカ派的な論理だけでなく、政治家が短期的な成功を焦り、職業外交官を無視して一部の〝アドバイザー〟の意見に耳を傾けて外交を行うことがいかに危ういかという点にある」

 このように外交に国民感情が反映されやすい時代だからこそ、国民が国際情勢を正しく見る視座が重要になってくる。細谷はこの現状を好機と捉えて、言論界での活動も精力的に行っている。

 「インターネットで世界中から簡単に情報が得られ、簡単にコミュニケーションをとることもできる。国民がフェイクニュースや陰謀論に騙されないための方法論と、正しく歴史を認識するリテラシーを身に付ければ、国民みなが日本人の思考や文化を発信する『外交官』になれる時代である。学問が専門化、高度化してその水準は上がっているが、その反面、国民から学問が遠い存在になっているので、私はその橋渡しを行い、国民の『外交力』の向上に貢献していきたい」

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