国際政治の秩序は今、大きな地殻変動のただ中にある。外交が政治化され、国民感情に左右される時代において、国民の国際情勢を見るリテラシーの底上げが重要になっている。
昨年、『自主独立とは何か』(新潮選書)を上梓し、イデオロギー、時間、空間に束縛された戦後史の解放に取り組む国際政治学者、細谷雄一。その研究活動や言論活動の背景には、親米か、反米かといったイデオロギー対立で戦後史を語り、陰謀論をまことしやかに信じる日本人の歴史認識に対する危機感が滲む。
「『汝自身を知れ』という古代ギリシャの格言があるが、国家も目的地まで安全に辿り着くためには、正確な地図が必要になる。私が専門とする国際政治史、外交史では、自分たちの立ち位置を時間的、空間的に相対化することに取り組んでいる」
「日本が抱える近隣諸国との問題は『戦後』の時間軸だけで考えていては、問題の本質が見えてこない。明治維新から150年、終戦からおよそ75年、そして平成の30年という3つの時間軸を組み合わせて、戦前と戦後を結び付け、さらには日本史と世界史を結び付ける『複合的な視座』が必要になる」
平成の幕開けとともに米ソ冷戦は終結し、その後訪れたパクス・アメリカーナの時代も過ぎ去り、国際政治の秩序は今、大きな地殻変動のただ中にある。米中対立が長期化の様相を見せる中、その狭間にある日本はどう外交を展開して国益を守っていくべきか。
「これからの外交を考える上で二つの点を念頭におかなければならない。まず、グローバルなリーダーシップを発揮し、国際秩序の安定のために国際公共財を提供するような、責任ある覇権国が不在になったことだ。米国という覇権国の善意に依存しておけば、日本の利益が守られるという時代は終わり、自国の利益や安全を自分たちの努力で守らなければならない『自助の時代』に入ったということが一点目。
二点目は、経済、軍事の両面において、米中が大きな影響力を行使しているということだ。米中関係が国際政治の根幹にある時代において、日本にとって最も難しい問題は、米国が日本の唯一の同盟国であることに対して、中国が日本の最大の貿易相手国であるということだ。安全保障の論理と経済の論理とを切り離して考えられた時代は、米国とは日米同盟を維持して、中国とは良好な経済関係を築いていればよかったが、尖閣問題を機に、中国は安全保障と経済の問題をリンクさせてきた。