GNHの考え方に基づいた政策を立案しているブータン政府のカルマ・ツェテームGNH委員会長官も経済成長の必要性を認める。「だが、経済発展と同等に社会的、文化的発展も重視しているのが我々が少し違うところだ」とも語る。
つまり、成長と引き換えに文化や社会が培った伝統を反故にすることはしない、というのだ。そして「GNHに着目した開発とGDPに着目した開発の違いは、クオリティ・オブ・ライフに対する考え方だ」と強調する。
クオリティ・オブ・ライフ。生活の質である。日本の高度経済成長が、世界一美しいと言われた田園風景を破壊し、伝統や文化を失わせ、家族の団欒までも奪い去った生活の質を犠牲にした成長だったと、言外に言われた気がした。ブータンはその〝失敗の轍〟は踏まないという意思を感じた。
GNHの本質は国民ニーズの吸い上げ
GNHがブータンの成長をスピード調整するための手法だとして、すでに成長を成し遂げ、成長が止まってしまった日本には何の役にも立たないかというと、決してそうではない。むしろ、ブータンが、クオリティ・オブ・ライフをどう高めるかに知恵を絞っていることに、学ぶべき点がある。
東日本大震災からの復興に向けて、政府は補正予算を組み、多額の資金を投じて被災地の再建に取り組んでいる。単なる「復旧」ではなく「復興」を目指すとして、地元も参画した復興プランの立案などが行われている。
その多額の投資によって再興された新しい町に住む人々の生活の質が、大きく向上することを期待したい。多額の資金が集中的に投資されれば、結果として経済は成長する。東北復興を日本全体の経済再成長の原動力にすることは十分に可能だろう。
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