日米関係の「解説者」を失うリスク
日本にとってこれは非常に憂うべき現状である。シンクタンクの日本専門家はアメリカの政策コミュニティで日本のことをあまりよく知らない外交や安保の専門家に、日本の考え方などについて解説する貴重な存在だ。日本では親日派の代表のように言われるカート・キャンベル国務次官補やリチャード・アーミテージ元国務副長官は、もともとは日本専門家でもアジア専門家でもなかった。そんな彼らが政府でアジア問題を扱う立場になったときに、日本専門家と出会い、彼らの日米同盟の重要性を説く解説に耳を傾けていくうちに、日本にとって良き理解者となっていった。
実際、戦後の日米関係は政府内外の日本専門家の解説力によってかなり助けられてきた部分がある。例えば、イラク、アフガニスタンなど米軍が同盟国にも軍事的貢献を求める安保の局面。彼らはそのつど、憲法第9条の存在と、「憲法の規定があるから日本は自衛隊を海外に大規模派遣するなどの直接的な参加はできない。それでも○○のような場で活発に活動しており、米国にとっては重要な同盟国でありパートナーだ」という解説をしてきてくれたのだ。日本専門家の存在がなければ、とっくの昔に「日本安保ただ乗り論」がワシントンの大半を占め、日米関係は冷却していたかもしれない。
このように日本の良き理解者の減少は、米国の中で日米関係の重要性を解説してくれるプロフェッショナルの人口減に直結する。
それはどのような影響をもたらすのだろうか。例えば、なかなか解決の糸口が見出せない普天間の基地問題。「何故、一度決まったはずの合意が実施されないのか」と苛立つ米議会に対して、公聴会の場などで日本の政治状況から来る合意実施の難しさを説明し、「普天間のような難しい問題はあるが、日本は一方で在日米軍駐留経費を相当分、拠出してきており、同盟国の中ではもっとも良いホスト国だ」と説いてきたのは他ならぬ日本専門家だ。
彼らのような「解説者」を失えば、米議会の中で「約束を守らない日本」「頼りにならない日本」のイメージがあっという間に広がってしまうかもしれない。このことが長期的に日米関係にとっていかにマイナスかは自明だろう。
さすがに危機感を覚えたのか。東京・四谷に本部を構える国際交流基金は今年から、日本専門家を主任研究員として迎える用意のあるシンクタンクや、日本から客員研究員を招聘する予定のあるシンクタンクに対する複数年にわたる助成を始めた。しかし、肝心の日本に元気がなければ、日本に対する関心は低空飛行を続けるため、助成期間の終了とともに、日本担当の主任研究員ポストが廃止になってしまう可能性は残る。国家としての勢いや米国にとっての重要性がそのまま、シンクタンクでの需要に直結するワシントンで、日本の存在感が復活するには、まだまだ時間がかかりそうだ。
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